第179回 「債務整理法」草案について

台湾の会社法によれば、会社が明らかに債務超過の状態にある場合、「有限会社(有限公司)」は、董事が裁判所に破産宣告を申し立てなければならず、「株式会社(股份有限公司)」も、裁判所に会社再建を申し立てられる条件を満たす場合を除き、董事会が裁判所に破産宣告を申し立てなければならないとされている。

裁判所が破産宣告する際の手続きは台湾の「破産法」に従って行われるが、現行の「破産法」の内容は現在の台湾社会の情勢に合致しないものになっていると考えられているため、司法院は、2016年4月に現行の「破産法」を「債務整理法(中国語名は「債務清理法」)」に改名して破産手続を規律する法律として改正草案を作成した。

新たに改名・改正される債務整理法の草案の全体的な特徴としては、条文数が旧破産法の159条から337条に増やされ、一般的な手続きに適用される共通事項と個別の手続きに適用される特別規定が明確に分けられることにより、債務整理事案ごとの特質に応じた処理方法が定められていることが挙げられる。

次に、個別的な特徴としては、以下が挙げられる。

本事項の主旨は、賃借人の利益を保障するため、建物賃貸借契約に記載すべき、または記載すべきでない事項を明確に規定することにある。主な内容には以下の項目が含まれる。

  1. 改正草案第150条で「贅沢禁止条項」が規定され、債務者は破産申し立て後、生活における消費が「一般人の通常の程度」を超えてはならず、超えた場合、裁判所は利害関係人の申し立てまたは職権により制限の決定を下す権限を有すると定められている。
  2. 債務者は債務弁済手続きの開始後、裁判所の許可なく現在の住居地を離れてはならず、裁判所は状況に応じて出国制限をすることもできるということが規定されている。
  3. 労働者の賃金債権を保障するため、雇用主に債務整理手続き開始の決定がなされ労働者賃金の未払いがある場合について、裁判所が債務整理手続き開始の決定を下す直前の6カ月間における、債務者の労働契約による未払いの労働者賃金については、債務整理手続きによらないことができ、労働者は先取特権を有すると規定されている。

行政院と司法院で異なる見解

なお、改正草案第250条について、現在、行政院と司法院では異なる見解を有している。

すなわち、司法院は日本の手法を参照して、民事再生会社と取引のある中小企業が特定の債権につき優先弁済を受けられることを認める内容にしたいと考えている。

これに対し行政院は、本条第1項の優先弁済を中小企業債権または小額債権に特定する主たる目的は、債務者の再建・更生がより実現しやすくなるようにすることであるはずであり、従って、優先弁済される「特定の債権」は、民事再生手続きの進行および法人の再建・更生に資する場合に限り適用すべきであり、「当該中小企業の債権が弁済されず、事業継続が困難となるおそれがあること」または「債権額の多寡」は重要ではなく、中小企業、小額債権についてそれぞれ別途条項を定める必要は当面ないと考えており、この考えに基づき、債権者に対する公平な弁済を保障し、および債務者の再建・更生の実現を図るという本草案第1条の立法趣旨を参照の上、金融監督管理委員会の提案に基づき本条を改正し、民事再生債権の優先弁済を民事再生手続きの進行および法人の再建・更生に資する場合に絞ることを提案している。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 尾上 由紀

早稲田大学法学部卒業。2007年黒田法律事務所に入所後、企業買収、資本・業務提携に関する業務、海外取引に関する業務、労務等の一般企業法務を中心として、幅広い案件を手掛ける。主な取扱案件には、海外メーカーによる日本メーカーの買収案件、日本の情報通信会社による海外の情報通信会社への投資案件、国内企業の買収案件等がある。台湾案件についても多くの実務経験を持ち、日本企業と台湾企業間の買収、資本・業務提携等の案件で、日本企業のアドバイザー、代理人として携わった。クライアントへ最良のサービスを提供するため、これらの業務だけでなく他の分野の業務にも積極的に取り組むべく、日々研鑽を積んでいる。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。