第181回 「行政訴訟法」の改正について

台湾の裁判所は、民事事件と刑事事件を審理する裁判所、および行政事件を審理する行政裁判所に分かれている。

日本の裁判所システムと異なるところは、独立した行政裁判所があることである。行政機関による行政処分を不服とする場合、行政機関への訴願を経て、行政裁判所に対し行政機関を相手として提訴することになる。

また、行政裁判は三級二審制である。この点は、台湾における通常裁判(三級三審制)と異なる。

なお、かつては行政裁判所には二級の裁判所(高等行政裁判所、最高行政裁判所)しかなかった。

かつて第一審の審理を行っていた高等行政裁判所は台湾全土に台北高等行政裁判所、台中高等行政裁判所、および高雄高等行政裁判所の3つの高等行政裁判所しかない。

このように、第一審の審理を行っていた高等行政裁判所が大都市に集中していることから、かつて地方に住んでいる当事者が高等行政裁判所に行政訴訟を提起する場合、上記の3都市の(管轄がある)いずれかの都市に赴かなければならなかった。そのため、高等行政裁判所が3つしかないことは、当事者にとってかなり不便であった。

地裁でも審理可能に

上記の問題を解決するため、2011年に行政訴訟法の改正案が立法院で可決され、12年9月6日より施行された。これにより、本来、地方裁判所は民事事件と刑事事件のみを審理していたが、行政訴訟法の改正後は、民事事件と刑事事件を審理する地方裁判所に行政廷が設置され、一定の行政事件については地方裁判所の行政廷が管轄することになった。

この結果、行政裁判所には三級の裁判所(地方裁判所の行政廷、高等行政裁判所、最高行政裁判所)が設けられた。なお、台湾には、21の地方裁判所(台湾本島以外の澎湖地方裁判所、金門地方裁判所、連江地方裁判所を含む)があることから、国民は一定の行政事件について行政訴訟を提起する場合、自分の住まいにより近い地方裁判所で提起することが可能になった。

次に、行政訴訟法第229条によれば、地方裁判所の行政廷が第一審として管轄する事件は、簡易訴訟事件(訴訟の目的の価額が40万台湾元以下の事件、および行政機関が行う勧告・警告・違反点数をつけることなどの軽微な行政法規違反に関する事件を指す)である。

また、同法第237条の2によれば、以前、地方裁判所の刑事廷が管轄していた交通裁決事件も、地方裁判所の行政廷が管轄することが可能になっている。ただし、簡易訴訟事件および交通裁決事件に関する地方裁判所の行政廷の判決に対し、当事者は高等行政裁判所に上訴することができるが、高等行政裁判所の判決が終局的なものとなるため、最高行政裁判所に上訴することはできない。

簡易訴訟事件および交通裁決事件以外の事件は、以前と同じく高等行政裁判所が第一審、最高行政裁判所が第二審として管轄する。

行政事件の審級をまとめると、簡易訴訟事件と交通裁決事件は、地方裁判所の行政廷および高等行政裁判所の二審制、簡易訴訟事件および交通裁決事件以外の行政事件は、高等行政裁判所および最高行政裁判所までの二審制となる。


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執筆者紹介

弁護士 尾上 由紀

早稲田大学法学部卒業。2007年黒田法律事務所に入所後、企業買収、資本・業務提携に関する業務、海外取引に関する業務、労務等の一般企業法務を中心として、幅広い案件を手掛ける。主な取扱案件には、海外メーカーによる日本メーカーの買収案件、日本の情報通信会社による海外の情報通信会社への投資案件、国内企業の買収案件等がある。台湾案件についても多くの実務経験を持ち、日本企業と台湾企業間の買収、資本・業務提携等の案件で、日本企業のアドバイザー、代理人として携わった。クライアントへ最良のサービスを提供するため、これらの業務だけでなく他の分野の業務にも積極的に取り組むべく、日々研鑽を積んでいる。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。