第226回 台湾法上の起訴猶予

2018年1月、台湾のある人気女性スターが飲酒運転で社会の大きな注目を集めました。当該女性スターの飲酒運転という犯罪行為に対し、台北地方検察署の検察官は捜査を行った後、最終的に2月上旬に2年間の「起訴猶予処分」とし、さらに当該女性スターに60時間の義務労働の提供を要求しました。

起訴猶予処分とは、起訴の代替案です。つまり、検察官は被告の行為につき犯罪が成立すると判断するものの、必ずしも起訴が必要ではない場合に一定の期間を定めて起訴猶予処分とすることができ、上記の期間中に起訴猶予処分が取り消されない限り期間が満了すれば、不起訴処分に相当する法律効果が生じます。

刑事訴訟法第253条の1以下では、比較的軽微な犯罪(死刑、無期懲役または主刑が一番軽くて3年以上の有期懲役以外の罪を指す)に限り起訴猶予処分とすることができると規定しています。検察官は、起訴猶予処分とするための交換条件として、被告に対し、1)被害者への謝罪、2)始末書の作成、3)被害者への賠償金の支払い、4)公庫への一定の金額の納付、5)40時間以上240時間以下の義務役務の提供などを含む一定の義務の履行を要求することもできます。

また、1)起訴猶予期間中に被告が故意に有期懲役以上の罪を犯し、検察官に起訴された、2)起訴猶予に付される前に被告が故意にそのほかの罪を犯し、起訴猶予期間中に有期懲役以上の刑の宣告を受けた、3)被告が上記で言及した履行すべき義務に違反したなどの場合には、起訴猶予処分が取り消される可能性があります。

長期化を回避

関連する証拠が明白で、被告の犯罪行為を否認するのが困難な場合、検察官が被告を不起訴処分とする可能性が非常に低いため、この場合は、起訴猶予処分を獲得し、起訴により事件が裁判所の審理へと進み訴訟が長期化するのを避けることが、被告にとって最も有益と言えます。

もっとも、検察官からうまく起訴猶予処分を獲得することができるかについては、被告の弁護士の能力と経験、および検察官の考え方を予測、理解できるか否かが非常に重要です。弊職は、日本人被告のために不起訴処分および起訴猶予処分を獲得し、当該日本人被告をスムーズに日本に帰国させた経験が数多くありますので、刑事面で何か問題があればぜひ当所までご連絡ください。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。