第230回 「記憶力を維持する」ガムの台湾販売リスク

日本で販売されている「記憶力を維持する」というキャッチコピーが付けられたガムを、台湾の代理購入(輸入代行)業者が台湾の消費者向けにインターネット上で販売したところ、台湾では日本でヒットした商品が非常によく売れる傾向があり、当該商品についても売れ行きが好調だった。しかし、衛生福利部(衛福部)食品薬物管理署(TFDA、食薬署)は代理購入業者に対し、広告内容に誇大・不実があり、「医療効能を有するもの」と消費者に誤解されやすいとして、広告をすぐに中止するよう要求した。

誇大・不実の表現か

「記憶力を維持する」ガムは、食品衛生管理と医薬品管理の両分野の法規に関わる可能性がある。

食品安全衛生管理法第28条第1項、第2項ではそれぞれ「食品などの表示、宣伝または広告について、不実、誇大または誤解が生じやすい状況があってはならない」、「食品について医療効能の表示、宣伝または広告をしてはならない」と規定されており、違反者は同法第45条に基づき4万~400万台湾元(約15万~1,500万円)の過料を科される恐れがある。

薬事法第22条第1項第2号では、「許可を得ずに無断で輸入した医薬品は未承認薬に該当する」と規定されており、同法第82条第1項によると「未承認薬を輸入した場合、10年以下の懲役に処し、1億元以下の罰金を併科することができる」と定められている。

未承認薬の可能性も

「記憶力を維持する」という表現について、不実に該当することが証明された場合、食品安全衛生管理法に基づき過料を取られる可能性がある。

また、当該ガムには「イチョウ葉抽出物」が含まれているが、一定の基準に適合するイチョウ葉抽出物について、日本では「健康補助食品」として販売することができるが、TFDAはイチョウ葉抽出物を医薬品として認定しており、薬事法の管理を受けなければならない。従って、「記憶力を維持する」ガムを医薬品登録せずに販売した場合、未承認薬を販売したとみなされ刑事責任を負う可能性がある。

以上をまとめると、日本で合法的に販売することができる商品を台湾で合法的に販売することができるとは限らない。外国の商品を輸入して台湾で販売する前には、違法を回避するため、まず現地の弁護士にリスク評価を依頼することをお勧めする。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 鄭惟駿

陽明大学生命科学学部卒業後、台湾企業で特許技術者として特許出願業務に従事した後、行政院原子能委員会核能研究所での勤務を経験。弁護士資格取得後、台湾の法律事務所で研修弁護士として知的財産訴訟業務に携わる。一橋大学国際企業戦略研究科を修了後、2017年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。