第240回 仲裁制度について

法的な紛争を解決する手段として、裁判以外に、調停や仲裁という制度があります。調停と仲裁は、いずれも第三者が紛争当事者の間に入りますが、調停が和解のあっせんであるのに対し、仲裁は第三者により仲裁判断が下される点で異なります。今回は、台湾における仲裁制度について紹介します。

仲裁の合意

仲裁制度を利用するためには、双方の当事者が、当該紛争を仲裁により解決する旨を書面で合意する必要があります。例えば、売買契約等にあらかじめ「本契約の履行に起因して生じる、または本契約に関する全ての紛争については、中華民国仲裁協会において仲裁を行い、紛争を解決する」との条項を設けておくことが必要です。また、紛争発生後であっても、当該紛争を仲裁にて解決する旨の合意をすることは可能です。

なお、仲裁法第4条第1項では、仲裁合意をした場合に、当事者が仲裁を経ずに訴訟を提起すると、裁判所は他方当事者の申し立てにより裁定を停止し、一定の期間内に仲裁に付すよう命じることとされています。

仲裁制度の特徴

台湾における仲裁制度の特徴は以下の通りです。

1)迅速な解決

裁判の場合、事案が複雑であれば長期化し、また、上訴される可能性もあるため、紛争解決に相当な長期間を要することがあります。この点、仲裁であれば、仲裁人は6カ月以内に仲裁判断書を作成しなければならず、必要がある場合でも3カ月しか延長できないため(仲裁法第21条第1項)、迅速な解決が期待できます。

2)専門家を指名可能

当事者は仲裁人を指名することができるため、係争分野の専門家を指名することで、適正な判断が期待できます。なお、当事者が仲裁人またはその選定方法を約定していない場合、双方の当事者がそれぞれ仲裁人を1名選任し、選任された2名の仲裁人が共同で第3の仲裁人を選任します(仲裁法第9条第1項)。

3)使用言語を選択可能

裁判の場合、手続きは中国語で進められますが、渉外仲裁案件においては、当事者は仲裁手続きで使用する言語を約定することができます(仲裁法第25条第1項本文)。

4)手続きの非公開

裁判の場合、原則として公開で行われますが、仲裁手続きは、当事者が別途合意しない限り非公開で行われる(仲裁法第23条第2項)ため、営業上の秘密を保護することができます。

5)仲裁判断に基づき強制執行が可能

仲裁人の仲裁判断は、当事者間において、裁判所の確定判決と同等の効力を有します(仲裁法第37条第1項)。そして当事者は、裁判所に執行裁定を申し立てた後、強制執行をすることができます(同条第2項本文)。さらに、仲裁判断が、金銭、その他代替物、有価証券または特定の動産の給付を目的とする場合には、当事者双方が仲裁判断について、裁判所の裁定がなくても強制執行できる旨を書面で約定していれば、裁定を経ることなしに強制執行をすることができます(同項但書)。

デメリットも考慮を

なお、仲裁判断の内容に不服があったとしても、仲裁には上訴制度がなく、また、仲裁判断に対して取消訴訟を提起できる事由は限られている(例えば、仲裁判断が仲裁合意した争議と関係がない等)ため、原則として、仲裁判断に従う必要があります。そのため、仲裁合意をする場合には、このようなデメリットも考慮する必要があります。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 福田 優二

大学時代に旅行で訪れて以来、台湾に興味を持ち、台湾に関連する仕事を希望するに至る。 司法修習修了後、高雄市にて短期語学留学。2017年5月より台湾に駐在。 クライアントに最良のリーガルサービスを提供するため、台湾法および台湾ビジネスに熟練すべく日々研鑽を積んでいる。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。