第241回 台湾法における国家賠償責任

2013年9月、ある女性が台北市の道路でオートバイを運転していた際、路面に開いた穴でバランスを崩して転倒し、骨折などの深刻なけがを負いました。女性は、道路を管理する台北市政府工務局に手落ちがあったとして、同局を相手取り国家賠償の請求訴訟を起こしました。18年6月下旬、台湾士林地方裁判所は、当該道路の施工品質は不良で、警告標識も置いておらず管理に手落ちがあったとして、台北市政府工務局に対し、治療費と慰謝料の計約34万台湾元(約123万円)の賠償支払いを命じる判決を下しました。

台湾政府機関の国家賠償責任については、主に国家賠償法の以下の条文において規定されています。

第2条第2項:「公務員が職務執行において公権力を行使する際、故意または過失により、人民の自由または権利を違法に侵害した場合、国は損害賠償責任を負わなければならない。公務員が職務執行を怠ったことにより、人民の自由または権利が損害を受けた場合も同様とする」

第3条第1項:「公有・公共施設の設置または管理不十分により、人民の生命、身体または財産が損害を受けた場合、国は損害賠償責任を負わなければならない」

本件において、負傷した女性は、国家賠償法第3条第1項に基づき、台北市政府公務局に損害賠償を請求したものです。

請求の手続きにおいては、国家賠償法第10条、第11条の規定に基づき、被害者は国家賠償を請求する場合、まず賠償義務を負う政府機関と交渉を行わなければならず、当該政府機関が交渉を拒否した場合、または交渉が不調に終わった場合に、被害者は当該機関を被告として損害賠償訴訟を提起することとされています。

日本人も国家賠償請求が可能

国家賠償法第15条では、「本法は、外国人が被害者となる場合、条約またはその本国の法令または慣習に基づいて、中華民国人が同国において同国人と同等の権利を享受できる場合に限り、これを適用する」と規定しています。日本法に基づき、台湾住民は日本においても国家賠償を主張する余地があるため、日本人が台湾において、公共施設の管理不十分または公務員の過失により、身体の傷害または財産の損害を受けた場合にも、基本的に台湾において国家賠償を請求することができます。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。