第246回 有害物質排出と刑事責任

有害物質等の排出についての刑事責任を定めた刑法第190条の1(流放毒物罪)が、2018年6月13日に改正されました。主な改正点は以下のとおりです。

1.「公共の危険の発生」を削除

従来、同条第1項では、有害物質等を排出して空気、河川、土壌などを汚染し、「公共の危険が発生した場合」に5年以下の有期懲役に処すとされていました。しかし、「公共の危険の発生」という要件は立証が難しく、これまで立件されるケースは極めてまれだったため、今回の改正では「公共の危険が発生した場合」という文言が削除されました。これはすなわち、有害物質等を排出して環境を汚染した事実が認められれば、同罪が成立することになります。

2.従業員も加重対象に

従来、同条第2項では、工場などの事業場所の「責任者」や「監督者」が事業活動の一環として第1項の行為に及んだ場合には処罰を加重すると規定されていました。しかし、今回の改正では、「代理人、被用者、またはその他の従業員」についても加重対象に定められました。なお、同項に該当し、処罰が加重される場合、7年以下の有期懲役に処され、また、1,500万台湾元(約5,500万円)以下の罰金が併科される可能性があります。

3.過失犯、未遂犯では不可罰も

同条第1項の罪の過失犯や未遂犯について、その内容が顕著に軽微である場合には罰しない旨の規定が第8項に新設されました。

上記のとおり、今回の改正によって、公共の危険が発生したという要件が不要となったため、流放毒物罪の立証が容易になりました。また、同罪は過失(不注意)であっても成立するため、今後は同罪での立件の増加が予想されます。そのため、毒物や有害物質(この有害物質等の認定は、毒性化学物質管理法、廃棄物処理法といった各種の環境保護衛生法規を参考になされます)を取り扱う業者は、これまで以上にそれらの取り扱いや処理に注意が必要となります。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 福田 優二

大学時代に旅行で訪れて以来、台湾に興味を持ち、台湾に関連する仕事を希望するに至る。 司法修習修了後、高雄市にて短期語学留学。2017年5月より台湾に駐在。 クライアントに最良のリーガルサービスを提供するため、台湾法および台湾ビジネスに熟練すべく日々研鑽を積んでいる。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。