第252回 店舗内での転倒と店側の責任

2018年8月23日、台湾基隆地方検察署は、以下の事件の捜査終結を公告しました。

ある客が店内でサービスを受け、会計も済ませて店を離れようとした際、つまずいて転倒し、複数箇所を骨折する等のけがを負いました。客は店内の床が平らではなかったとして、店舗のマネージャーを業務上過失傷害罪(刑法第284項第2項)で告訴しました。これに対し基隆検察署は、客の主張する床タイルの高低差は目視で確認できず、水平器を用いて計測しても0.1センチメートルしかなかったため、客の転倒には因果関係がないと判断し、不起訴処分としました。

因果関係証明で無過失責任

しかし昨年、店員がモップで清掃して床が滑りやすくなったことが原因で客が転倒してけがを負ったため、店舗の責任者が業務上過失傷害罪で起訴された事例がありました。このように、日常の何気ない業務にも事故の危険が潜んでいるため、責任者は常に事故の原因になり得るものに気を配る(清掃を例に挙げると、警告表示を設置する等、転倒の危険を避けるための安全措置を講じる)必要があるといえます。

業務上過失傷害罪が成立すると、1年以下の有期懲役、拘留または1,000台湾元(約3,600円)以下の罰金に処せられ、重傷の場合には、3年以下の有期懲役、拘留または2,000元以下の罰金に処せられます。

また、消費者保護法第7条では、消費者が企業経営者の商品を使用し、またはサービスを受けて損害が発生した場合、消費者は、損害と商品・サービス間に因果関係があることを証明するだけで損害賠償を請求することができ、企業経営者は無過失責任を負うとされています。

そして、消費者保護官によると、百貨店、ショッピングセンター、飲食店等の床が滑りやすく、消費者が転倒してけがをするといった事例は全てこれに該当するとされています。なお、過去の事例では、客が転倒して骨折した場合の賠償金額は10万〜20万元程度とされるケースが多いですが、けがの後遺症が残ったケースでは322万元という高額な賠償が認められたこともあります。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 福田 優二

大学時代に旅行で訪れて以来、台湾に興味を持ち、台湾に関連する仕事を希望するに至る。 司法修習修了後、高雄市にて短期語学留学。2017年5月より台湾に駐在。 クライアントに最良のリーガルサービスを提供するため、台湾法および台湾ビジネスに熟練すべく日々研鑽を積んでいる。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。