個人的な争いについてネット上で世間の意見を求めることはできるか?

 最近、台湾で非常に興味深い法律事件があった。概要は以下のとおりである。

 2018年10月、台北市の某高級ホテルの地下駐車場において甲と乙による争いが起こり、乙の友人の丙は、現場において甲と乙の争いの様子を携帯電話で録画した。その後、乙はその録画動画をネット上にアップロードし、ネット仲間からの意見を求めた。思いがけないことに、ネット上で熱い議論が引き起こされ、その映像は16万回以上も再生され、さらにネット上で甲本人が特定され、甲の行為について意見がなされた。

 甲は、乙が当該影像をアップロードしたことは甲のプライバシー権、肖像権を侵害しており、また甲の名誉を棄損したと考え、乙を被告として、50万台湾元の損害賠償を請求した。

 当該事件は台北士林地方裁判所の審理を経て、裁判官は、2020年12月28日、「原告(甲)の訴えを棄却する」との判決を下した(内湖簡易廷2019年湖簡字第1768号民事判決)。

裁判官が甲に敗訴判決を下した主な理由は次のとおりである。

一、本事件の発生地はホテルの地下駐車場であり、一般の人なら誰でも入れる公共の場所である。よって、このような公共の場所における甲の言動を、高度な保護を受けるべきプライバシーとするのは難しい。

二、甲乙双方が当時、争っていた内容は、甲に規則に違反した右折又は駐車があったか否か(甲は、乙が規則に違反した右折を指摘したことは誤りであると主張しているが、乙は、自分が指摘したのは甲の規則に違反した右折ではなく、規則に違反した駐車であると主張している)であり、その争いの内容は大衆の交通安全に関わり、単純な個人的な争いに留まらない。本件において、甲の方から自発的に乙と議論を始めたからには、乙がその争いについて世間の意見を求めることなく黙って耐えることを期待すべきではない。

三、一個人の「名誉」は、本来大衆の評価によって形成されるものである。乙が争いの様子の映像をネット上にアップロードしたため、様々な議論を引き起こし、ネット上で甲への悪評を引き起こす結果となったが、この悪評は元々甲が受けるべき社会的評価(名誉)であったため、名誉について損害を受けたとは言えない。

四、ネット上にアップロードされた争いに関する動画について、全ての動画が熱い議論を引き起こすとは限らず、動画がネット上で共鳴され又は関心を持たれるかについては、アップロードした人がコントロールできることではなく、アップロードした人にその後の不確定な結果の責任を負わせてしまうと、ネットにおける言論の自由を制限することになってしまう。

 実務上、本件のような、当事者が争いの動画をアップロードし、世間の意見を求めるというケースはかなり多いものの、これに起因してアップロードした人に対して訴訟を提起するということは台湾ではあまりなかった。したがって、本件の判決は、注意に値するものである。


 *本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。

【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修