第618回 スマートドアベルの設置とプライバシー侵害

近年、台湾においても防犯意識の高まりを背景に、スマートドアベルや監視機能付きインターホンの設置が一般化しています。しかし、その設置方法によっては、隣人のプライバシー権を侵害する可能性がある点に注意が必要です。

この点につき、台湾の桃園地方裁判所は、集合住宅における設備設置とプライバシー保護の関係について、実務上の判断を示しました。

公共空間のプライバシー

本件では、被告が自宅玄関脇にスマートドアベルを設置し、そのカメラが正面の原告宅玄関を向いていたことが争点となりました。被告は、撮影範囲がマンションの共用廊下であることから、「公共空間でありプライバシーの合理的期待は存在しない」と主張しました。

これに対し裁判所は、当該廊下が不特定多数が利用する広い共用空間ではなく、実質的に対向する2戸のみが利用する閉鎖的な空間である点に着目しました。そして、住戸の玄関前からエレベーターに至る動線は居住者の日常生活と密接に関連する領域であり、たとえ形式上は共用部分であっても、一定の私的性質を有するとして、プライバシー保護の合理的期待が認められると判断しました。

侵害の可能性があるか

さらに裁判所は、被告が「録画機能は作動していない」と主張した点についても退けています。

本判決の特徴は、実際に録画が行われたか否かではなく、「録画が可能な状態で、かつ対象住戸を直接撮影し得る設置態様そのもの」に着目した点にあります。すなわち、装置の管理・操作権限が被告にある以上、原告に対して実際の撮影の有無を証明させるのは不公平であり、撮影の可能性が継続的に存在すること自体が、プライバシー侵害またはそのおそれを構成すると判断されました。

台湾においてマンションなどで撮影可能な設備を導入する際には、単に管理規約の有無だけでなく、隣接住戸のプライバシーへの影響を個別具体的に検討し、必要に応じて設置位置や角度の調整、了承の取得などを行うことが望ましいといえます。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 鄭惟駿

陽明大学生命科学学部卒業後、台湾企業で特許技術者として特許出願業務に従事した後、行政院原子能委員会核能研究所での勤務を経験。弁護士資格取得後、台湾の法律事務所で研修弁護士として知的財産訴訟業務に携わる。一橋大学国際企業戦略研究科を修了後、2017年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。