第633回 他人名義での登記簿謄本取得
台湾高等裁判所高雄支部は、2026年8月6日に26年度上訴字第1117号刑事判決を下し、被告の陳氏が他人の名義を冒用して第1類不動産登記簿謄本を申請したことは、個人情報保護法第41条の非公務機関による個人情報の違法利用罪に該当すると認定し、懲役4月の判決を言い渡しました。
隣家の登記簿謄本を無断申請
本件の概要は以下のとおりです。被告の陳氏は、屏東の地元ではかなり知名度の高い弁護士です。陳氏は、家屋の水漏れに関する民事訴訟を受任し、隣家の詳細な情報を確認するため、その所有者から権限を付与されていないにもかかわらず、2022年12月に無断で同所有者を申請人、自身を代理人として当該隣家の第1類土地および建物登記簿謄本を登記機関に申請して取得しました。このため、検察官から文書偽造および個人情報保護法違反などの罪で起訴されました。
第1審の屏東地方裁判所は審理の結果、被告は訴訟を進めるために不動産登記簿謄本を申請しており、犯罪の故意を欠くとして無罪判決を言い渡しました。
しかし、第2審の台湾高等裁判所高雄支部は、被告が家屋所有者から権限を付与されていないにもかかわらず、その代理人になりすまして申請書を作成して提出したことは、文書偽造の犯罪行為を構成すると判断しました。さらに、被告が無断で家屋所有者の氏名および身分証統一番号を利用して第1類登記簿謄本を申請したことについても、個人情報保護法第41条の罪が成立すると認定し、最終的に、より刑の重い後者の罪を適用し、懲役4月の判決を言い渡しました。
個人情報保護法違反
台湾の不動産登記簿謄本は主に3種類に分けられます。第1類謄本の内容には、不動産の登記名義人の詳細な個人情報(氏名、身分証番号、生年月日など)、当該物件の完全な住所および権利関係が含まれており、原則として登記名義人本人のみが申請できます。
第2類謄本の内容は大幅に省略されており、権利者の姓のみが表示され、身分証番号や生年月日などはすべてマスキング処理され、住所も通りの名前までしか表示されず、住居番号がないため、第2類謄本の参考価値は比較的低いものの、誰でも申請することができます。
第3類謄本の詳細度は第1類と第2類の中間であり、当該不動産と法律上の利害関係を有する者(例えば所有者の債権者など)のみが申請できます。また、個人情報保護法第41条では、自己もしくは第三者の不法な利益を図る意図、または他人の利益を損なう意図をもって、個人情報保護法に定める個人情報の収集、処理または利用に関する規定に違反し、他人に損害を生じさせるおそれがある場合、5年以下の懲役に処し、100万台湾元以下の罰金を併科することができると規定しています。
本件の陳氏は家屋所有者の同意を得ずに、当該家屋所有者の詳細な個人情報が記載された第1類不動産登記簿謄本を申請して取得したため、個人情報保護法第41条違反の罪に問われました。
台湾の個人情報保護法は日本よりも厳格であり(例えば、日本のニュース報道では違法行為が疑われる者の顔やフルネームを公表するのが一般的ですが、台湾ではモザイク処理が必須であり、フルネームを公表することもできません)、刑事責任も問われやすくなっています。従って、台湾では「他人の個人情報を取得する」行為に関わる限り、特別な注意を払う必要があります。
*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。
執筆者紹介
国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。
本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。
