第9回 使用者からの労働契約の解除(2)~試用期間中の従業員の即時解除~

Q:上海市所在の独資企業X社は、従業員Aを新たに雇用することとし、Aとの間で以下の労働契約を締結しました。 

契約期間:3
業務職種:営業職
試用期間:6か月
採用条件:試用期間中の毎月の販売実績を5万元とすること(他の営業職従業員の雇用時と同様)

 その後、Aが入社してから5か月が経過しましたが、Aの販売実績は一度も5万元に達したことはなく、6か月目である今月も、半分が過ぎたところで1万元に達しておらず、到底5万元に到達することはなさそうです。そうしたところ、Aは、昨日から体調不良を理由に病休を取っています。X社としては、Aが採用条件を全く満たしていないことから、Aとの労働契約を解除したいと考えています。X社は、Aとの労働契約を解除できるでしょうか?また、解除は、Aが病休中のタイミングで行うことができるでしょうか?それとも病休明け(試用期間が経過する恐れもあります)に行うべきでしょうか?

 A:X社は、Aとの労働契約を解除できると考えられます。もっとも、X社は、試用期間中に解除を行う必要があり、病休明けまで待った場合、試用期間が経過してしまうということであれば、病休明けを待つことなく解除を行うべきであると考えます。

解説

1 法令の定め
(1)使用者からの労働契約の即時解除
労働契約法(以下「本法」といいます)第39条では、事前の予告なしに、使用者から労働契約を一方的に解除する場合、すなわち、労働契約の即時解除について定めており、即時解除が可能な事由を以下のとおりとしています。

試用期間において採用条件に不適格であることが証明された場合
②使用者の規則制度に著しく違反した場合
③重大な職務怠慢、私利のための不正行為があり、使用者に重大な損害を与えた場合
④労働者が同時に他の使用者と労働関係を確立しており、使用者の業務上の任務の完成に重大な影響を与え、又は使用者から是正を求められたもののこれを拒否した場合
⑤本法第26条第1項第1号に規定する事由により労働契約が無効となった場合
⑥法に従い刑事責任を追及された場合

 このため、使用者は、労働者について「試用期間において採用条件に不適格であることが証明された場合」には当該労働者との労働契約を即時解除することができます。
 もっとも、使用者が定める採用条件については、違法なものや不合理なもの(例えば、女性従業員が妊娠しないことを採用条件にするなど)であってはならないと考えられます。

(2)即時解除と労働契約解除の制限
 本法第42条は、使用者が、労働者に「病を患い、又は業務外の理由で負傷し、規定の医療期間内にある場合」等の一定の事由が存在する場合に、一方的に労働契約を解除することを制限しています。しかし、当該労働契約解除の制限を受けるのは、予告解除及び整理解雇のみとされており、即時解除を行う場合には当該制限に服する必要はありません

(3)解除可能時期
 即時解除事由のうち、上記(1)①「試用期間において採用条件に不適格であることが証明された場合」以外の即時解除事由((1)②~⑥)については、即時解除事由該当後、解除可能時期に制限はありません。

他方で、以下で掲げる労働部による回答からすれば、①「試用期間において採用条件に不適格であることが証明された場合」に該当することを理由に即時解除するためには、解除が試用期間中でなければならないと考えられます。

【労働部弁公庁による「試用期間中の採用条件不適格によって労働契約を解除できることをいかに確定するかについての伺い」に対する回答】 

試用期間において採用条件に不適格である労働者について、企業は労働契約を解除することができる。もっとも、試用期間を超過した場合、企業は試用期間において採用条件に不適格であることをもって労働契約を解除することはできない。

(4)その他の試用期間に関する定め
 その他、本件にも関連しうる試用期間に関する本法の規定としては以下のものがあります。

【本法第19条第1項】
労働契約の期間が3か月以上1年未満の場合、試用期間は1か月を超えてはならない。労働契約の期間が1年以上3年未満の場合、試用期間は2か月を超えてはならない。3年以上の固定期間及び期間を固定しない労働契約の試用期間は、6か月を超えてはならない

【本法第21条】
労働者が本法第39条及び第40条第1号、第2号に定める事由に該当する場合を除き、使用者は、試用期間において労働契約を解除してはならない。使用者が試用期間中に労働契約を解除する場合は、労働者に理由を説明しなければならない。

2 本件

 本件では、まず、X社はAとの間で3年の労働契約を締結し、6か月の試用期間を設けているところ、当該試用期間の設定は適法です。
 また、X社は、Aの採用条件として「試用期間中の毎月の販売実績を5万元とすること」を求めていますが、これは他の営業職従業員の雇用時と同様の条件であり、不合理なものではないと考えられます。
そして、Aは、入社してから5か月間、販売実績が一度も5万元に達したことはないため、上記採用条件に不適格であり、当該事実を証明することも難しくないものと考えられます。
 さらに、Aは病休中ですが、即時解除を行う場合には、病休を理由とする労働契約の解除制限に服する必要はありません。
 したがって、X社は、Aに対してその理由を説明した上で、Aとの労働契約を解除することができると考えられます。

 もっとも、X社は、労働契約を解除するタイミングに注意する必要があります。つまり、上記1(3)のとおり、試用期間中に即時解除を行わなければなりません。Aにとっては酷な状況となるかもしれませんが、病休明けまで待った場合、試用期間が経過してしまうということであれば、病休明けを待つことなく即時解除を行うべきであると考えられます。
 なお、本件では、Aの業務職種が営業職であることもあり、採用条件が「試用期間中の毎月の販売実績を5万元とすること」という明確なものであることから、X社が採用条件に不適格であるとの証明をすることは難しくないものと考えられます。
 しかし、実際の事案では、採用条件が不明確であったり、従業員の行為又は業績に対する客観的な記録、評価がなされていなかったりするために、使用者側において従業員が採用条件に不適格であることを証明できないケースが少なくありません。

 試用期間について、雇用した従業員の適正を見極めるための意味のある期間とするためには、採用条件を明確にして従業員に提示した上で、従業員の試用期間中の行為又は業績に対する客観的な記録、評価を行っておく必要があります。


*本記事は、一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。

*本記事は、Mizuho China Weekly News(第702号)に寄稿した記事です。