第10回 株主の議決権について

日本の会社法(以下「日本法」といいます)においても台湾の会社法(以下「台湾法」といいます)においても、株主による会社の意思決定への参与は株主総会を通して行われるため、議決権は非常に重要です。今回は株主の議決権の違いを見ていきましょう。

1 株主の議決権の原則

株主とは株式会社の出資者のことを意味しますが、株主は株式会社に対して様々な権利を有しています。この権利を株主権といいますが、大別して共益権と自益権に区別されます。

このうち、共益権とは、株主が会社の経営に参与しあるいは取締役等の行為を監督是正する権利をいいます。

具体的には、株主提案権(日本法第303条から305条、台湾法第172の1条)、株主総会招集権(日本法第297条、台湾法第173条第1項)などがありますが、株主による会社の経営への参与は株主総会を通して行われるため、株主総会における議決権が共益権の中心となります。

株式会社の株主の議決権において、原則として一つの株式につき一つの議決権を有することは日本法と台湾法で同様であり、出資額に応じて議決権が付与される仕組みが採られています(日本法第105条第1項第3号、第308条、台湾法第179条第1項)。

なお、以下2~6にあげるように、一つの株式につき一つの議決権を有するという原則にも例外があり、この例外の内容については、日台で共通する点も相違する点もあります。

2 議決権制限株式 

定款によって、特定の株式についてのみ議決権を制限する種類株式を定めることができます(日本法第108条第1項第3号、台湾法第157条第1項第3号)。この点については日本法と台湾法で違いはありません。

3 自己株式

会社の保有する自己株式には議決権がありません(日本法第308条第2項、台湾法第179条第2項第1号)。この点についても日本法と台湾法で違いはありません。

4 複数議決権株式

台湾法においては、2018年の改正によって、特定の株式についてのみ複数の議決権を与えるような種類株式を発行することができるようになりました(台湾法第157条第1項第4号)。

一方、日本法においては、このような複数の議決権を与える種類株式を発行することはできません。しかし、株式の種類ごとに異なる単元株式数(一定の株式数に達する株主にのみ権利を認める制度)を定めることができる(日本法第188条第3項)ため、権利についてごくわずかな違いのある2種類の株式を発行し、例えばA種類株式は2株1単元、B種類株式は1株1単元と定めることで、実質的に複数議決権株式を発行することができると考えられています。

5 特別利害関係株主

特別利害関係株主とは、問題となる議案の成立により他の株主と共通しない特殊な利益を獲得し、もしくは不利益を免れる株主をいいます。日本法と台湾法ではこのような株主の議決権行使の取り扱いについて以下のような違いがあります。

日本法においては、特別利害関係株主は、議決権の行使が制限されておらず、その行使により著しく不当な決議がされたときにのみ、株主総会決議の取消事由となります(日本法第831条第1項第3号)。

台湾法においては、特別利害関係株主は、議決権を行使又は代理行使できず、また定足数にも含まれません(台湾法第178条、第180条第2項)。

6 相互保有株式

A社がB社に対して議決権を行使する場合において、同時にB社もA社の株式を保有していることを理由に、A社の議決権行使が制限される場合がありますが、日本法と台湾法では制限の仕方に以下のような違いがあります。

日本法においては、B社がA社の総株主の議決権の4分の1以上を保有している場合には、A社のB社に対する議決権行使が認められません(日本法第308条第1項括弧書き)。

台湾法においては、B社の発行済株式総数又は資本総額の3分の1を超えない範囲でしか、A社のB社に対する議決権行使が認められません(台湾法第369条の10第1項本文)。

例えば、A社(発行済株式総数100,000株)がB社(発行済株式総数60,000株)の株を24,000株保有し、B社がA社の株を50,000株有している場合、A社はB社に対して発行済株式総数の60,000株の3分の1、つまり20,000株を超える4,000株の部分については議決権を行使できず、20,000株の範囲でしか議決権を行使できません。

このように、A社がB社に対する議決権を行使する場合において、日本法ではB社が保有するA社の株式の割合が問題となり、台湾法ではA社が保有するB社の株式割合が問題となるという違いがあります。

 

日本法 台湾法

議決権

原則一つの株式につき一つの議決権(日本法第105条第1項第3号、第308条) 原則一つの株式につき一つの議決権(台湾法第179条第1項)
議決制限株式 議決権制限の種類株式発行可能(日本法第108条第1項第3号、第2項第3号) 議決権制限の種類株式発行可能(台湾法第157条第1項第3号)
複数議決権株式 複数議決権の種類株式は発行できないが、実質的に同じ機能は実現可能と解されている(日本法第188条第3項) 複数議決権の種類株式発行可能(台湾法第157条第1項第4号)
自己株式 自己株式は議決権を有しない(日本法第308条第2項) 自己株式は議決権を有しない(台湾法第179条第2項第1号)
特別利害関係株主 特別利害関係株主は、議決権の行使は制限されない。しかし、その行使により著しく不当な決議がされたときは、株主総会決議の取消事由となる(日本法第831条第1項第3号) 特別利害関係株主は、議決権を行使又は代理行使できず、また定足数にも含まれない(台湾法第178条、第180条第2項)
相互保有株式 A社がB社に対して議決権を行使する場合、B社がA社の総株主の議決権の4分の1以上を保有しているときには、A社のB社に対する議決権行使は認められない(日本法第308条第1項括弧書き) A社がB社に対して議決権を行使する場合、B 社の発行済株式総数又は資本総額の3分の1を超えない範囲でしか、A社のB社に対する議決権行使は認められない(台湾法第369条の10第1項本文)

以上


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