第339回 配偶権の侵害と損害賠償責任

 5月29日、司法院大法官会議(憲法裁判所に相当)は、配偶者以外との性交渉を処罰する刑法の姦通(かんつう)罪は違憲であると判断し、同罪は廃止されました。そのため、今後は台湾で不貞行為をしても逮捕・起訴されることはありません。しかし、これにより、不貞行為などについて一切責任を負う必要がなくなったということではなく、従来通り、民事上の責任を負う可能性はあります。

 最高法院55年台上字第2053号判決では、「婚姻は夫婦の共同生活をその目的とし、配偶者は相互にその共同生活の円満安全および幸福を保持するよう協力しなければならず、夫婦が互いに誠実であることは、その共同生活の円満安全および幸福を確保するための必要条件であるため、配偶者は婚姻契約により、互いに誠実義務を負うと解すべきである。配偶者の一方の行為が不誠実で、共同生活の円満安全および幸福を破壊した場合、婚姻契約による義務に違反し、他方の権利を侵害している。」と判断され、いわゆる「配偶権」の侵害を理由に、損害賠償請求が認められました。

 そして、配偶権の侵害については、不貞行為に限らず、ある行為が社会通念上容認される範囲を超え、他人の婚姻共同生活の円満安全および幸福を破壊した場合にも認められます(台湾高等法院107年度上易字第1277号など)。

 以下のような裁判例において、実際に配偶権の侵害が認められました。

損害賠償の実例

  1. 写真から、キスしたり顔を近づけたり肩を寄せ合っていた事実が認められる事案において、20万台湾元(約72万円)の損害賠償請求が認められました(桃園地方法院105年度訴字第920号)。
  2. 出入国記録などから、約1年2カ月で6回も一緒に海外旅行をしていた事実が認められる事案において、20万元の損害賠償請求が認められました(新北地方法院107年度訴字第2939号)。
  3. LINE(ライン)の記録から、お互いを「老公(妻が夫を呼ぶ際の呼称)」、「老婆(夫が妻を呼ぶ際の呼称)」と呼び合っていたり、上半身裸の写真を送っていた事実が認められる事案において、10万元の損害賠償請求が認められました(嘉義地方法院108年度朴簡字第12号)。

 このように、たとえ不貞行為まで認められなくとも損害賠償責任を負うことがありますので、既婚者との交友には一定程度の注意が必要です。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 福田 優二

大学時代に旅行で訪れて以来、台湾に興味を持ち、台湾に関連する仕事を希望するに至る。 司法修習修了後、高雄市にて短期語学留学。2017年5月より台湾に駐在。 クライアントに最良のリーガルサービスを提供するため、台湾法および台湾ビジネスに熟練すべく日々研鑽を積んでいる。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。