賃貸借関係における家主の修繕義務

日本料理に対する台湾人の受容性は非常に高く、このため、多くの日本の飲食業者が台湾で店舗を賃借し、レストランを開設している。しかしながら、日本人が賃借する店舗で水漏れなどのトラブルが生じることもあり、このような場合には、修理をするのは家主なのか、それとも借家人なのかが問題となる。

この点について、台湾の民法に次の規定がある。

第423条:

賃貸人は、賃貸借の目的物を約定した使用収益に適する状態で賃借人に引渡さなければならず、また、賃貸借関係の存続中において、当該賃貸借の目的物を約定した使用、収益に適する状態に維持しなければならない。

第429条:

(第1項)賃貸借の目的物の修繕は、契約に別段の定めがある場合または別の慣習がある場合を除き、賃貸人が負担する。

(第2項)賃借人は、賃貸人が賃貸借の目的物の保存に必要な行為をすることを拒むことができない。

第430条:

賃貸借関係の存続中において、賃貸借の目的物に修繕の必要が生じ、賃貸人が負担すべき場合、賃借人は相当の期間を定め、修繕するよう賃貸人に催告することができ、賃貸人が期間内に修繕をしないとき、賃借人は、契約を終了させるか、または自ら修繕し、その費用の償還を賃貸人に請求するか、もしくはその費用を賃料から控除することができる。

このため、例えば、日本の飲食業者甲が台湾人乙から店舗Aを賃借してレストランを開設し、一定期間経過後に壁に水漏れの状況が発生し、営業が妨害された場合、上記の規定によれば、甲は一定の期間を定めて水漏れした壁を修理するよう乙に要求することができ、かつ乙が同期間内に水漏れの問題の処理を完了しなかったときには、甲は賃貸借契約を終了させるか、または甲自らが修理し、その修理費用の償還を乙に請求するか、もしくは修理費用を賃料から直接控除することができる。

もっとも、上記民法における賃貸人にとっての不利益な修繕規定は強行規定ではないため、当事者間における特約により除外することができる。このため、実務においては、自己の責任を大幅に軽減させるために、賃貸借契約の中に特約条項(例えば、賃借人は、引渡し時において本店舖に問題がなく、引渡し後に水漏れ等の問題が発生した場合にはすべて賃借人が自ら修理することを確認する等)を加える賃貸人は少なくない。従って、日本の業者が台湾で店舗などの不動産を賃借するに当たっては、必ず賃貸借契約の内容が合理的なものであるか否かを、慎重に確認してから契約の締結を行うべきである。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。

【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修