第326回 既存株の凍結期間とは?

既存株の凍結期間とは、台湾の上場会社が株主総会を招集する前に、株主名簿を更新し、株主総会の招集通知を各株主へ確実に送付することを目的として、株主総会前の一定期間、株式の譲渡を停止させる制度です。

上場会社は営業日にほぼ毎日、株取引があり、株主が頻繁に入れ替わるので、株主の身分を確定するメカニズムを備えておく必要があります。会社は、誰に配当金を支払うべきか、誰が株主なのかを確定して、初めて株主総会招集通知を送付する相手を確定できます。これについて、会社法の枠組みの下では株主名簿制度が設けられていて、株式の譲渡により、会社に対して株主名簿の変更を申請しなければならないとされています。また、会社は株主名簿を株主の身分を認定する唯一の根拠とします。

公開発行会社株式事務処理準則第41条1項によると、上場会社を含む公開発行会社は、定時株主総会開催前の60日間、臨時株主総会開催前の30日間、または株式配当、株主への賞与もしくはその他利益分配の決定基準日前の5日間、株式の名義書き換えを停止するとされています。

凍結期間でも、株主は保有株式を自由に譲渡できますが、株主名簿の変更はできないので、仮に凍結期間に株式を購入したとしても、株主総会招集通知を受け取れず、株主総会で議決権を行使する権利もありません。

また、会社法第192条の1では、会社が董事の候補者指名制度を採用する場合は、株主総会での董事の選出を予定しており、凍結期間前であるときは、発行済み株式総数の1%以上の株式を保有する株主は、会社に対して董事候補者名簿を提出できる旨が規定されています。

WPGによるTOB事例

凍結期間が30日や60日と長いのは、紙媒体で株主名簿を登録していた時代にその必要性があったためですが、デジタル化した今日ではこの期間が明らかに長過ぎ、上場会社によって凍結期間がしばしば恣意(しい)的に運用されています。

例えば、大聯大投資控股(WPGホールディングス。以下「WPG」)による文曄科技(WTマイクロエレクトロニクス。以下「WT」)の株式公開買い付け(TOB)事例では、WPGが買い付け期間を今年の1月30日まで延長すると発表した後、WTは特例により定時株主総会(一般的には6月開催)を3月27日に繰り上げて開催すると決定したため、凍結期間は1月28日からとなりました。

これにより、WPGはたとえTOB期間終了後にWTの筆頭株主になったとしても、WTの今年の定時株主総会で議決権を行使することはできません。WTの今年の定時株主総会での重要議案は、WPGの持ち株比率を下げるための私募新株、公募新株、および従業員向け権利制限付き新株の発行でした。

外国投資家が台湾の上場会社に投資する際には、台湾には現在もいまだとりわけ長い凍結期間があることを理解すると同時に、取得する株式に直近の株主総会で議決権を行使する機会があるかどうかに注意する必要があります。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 鄭惟駿

陽明大学生命科学学部卒業後、台湾企業で特許技術者として特許出願業務に従事した後、行政院原子能委員会核能研究所での勤務を経験。弁護士資格取得後、台湾の法律事務所で研修弁護士として知的財産訴訟業務に携わる。一橋大学国際企業戦略研究科を修了後、2017年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。