タロコ号列車脱線事故の法的責任について

4月2日午前、台湾鉄道管理局(以下「台鉄」という)の列車「タロコ号」に重大な脱線事故が発生し、49人の乗客が死亡し、200人以上の乗客が負傷するという甚大な被害が引き起こされた。メディアの報道によれば、本脱線事故は、「義祥工業社」の責任者A氏が、同社の工事車両を停車した際の操作が不適切であったため、当該工事車両が斜面から滑って列車の線路に進入してしまい、ブレーキをかけたが間に合わなかった列車「タロコ号」に猛スピードで激突し、列車が脱線、横転したことが原因であるとのことである。

メディアの報道による情報に基づき、本脱線事故の関連する法的責任について、以下のとおり分析する。

一、A氏の刑事責任
2021年4月16日の花蓮地検による起訴状によれば、主に、刑法第276条の過失致死罪(過失により人が死亡した場合、5年以下の懲役、拘役又は50万台湾元以下の罰金に処す)が該当する。本事件においては、このような重大な死傷が発生したにもかかわらず、A氏の過失行為はたった一つであるため、刑法第55条の罪数の計算規定(一つの行為により複数の罪名を犯した場合、範囲内の一つのより重い罪により処罰する)により、A氏の停車際の操作が不適切であることについては一つの過失致死罪のみが構成される可能性がある。なお、花蓮地検は、A氏が事後発生後に、適時に警察などの公的機関に通報せず、救護作業にも積極的に参加しなかった、という不作為について、刑法第185条の4のひき逃げ罪として起訴した。上記2つの罪について、花蓮地検はそれぞれ懲役5年、7年を求刑した。

二、A氏の民事責任主
民法第184条の権利侵害行為の損害賠償責任(故意又は過失により他者の権利を不法に侵害した場合、損害賠償責任を負う)が該当する。本事故により引き起こされた被害は甚大であり、損害も莫大であるため、A氏が財産を隠すのを防ぐため、台鉄は義祥工業社およびA氏の財産、債権などについて、裁判所に仮差押えを申立て済であり、メディアの報道によれば、現時点で約8億台湾元の財産が差し押さえ済とのことである。

三、台鉄の民事責任
鉄道法第62条の規定:「(第1項)鉄道機構は運転およびその他の事故により人が死亡、負傷し又は財物が毀損・喪失を受けた場合、損害賠償責任を負う。(第2項)前項の鉄道の運転およびその他の事故の発生について、鉄道機構による過失によるものではないことを証明できる場合であっても、人の死亡又は負傷については、依然として弔慰金又は医療・医薬品補助金を適宜支給しなければならない。但し、事故の発生が被害者の故意又は過失行為によるものである場合はこの限りではない。(第3項)前二項の損害賠償、弔慰金又は医療・医薬補助金の支給の基準、方式およびその他の関連事項の弁法については、交通部が定める。」

本条第1項の規定によれば、台鉄に本事故の発生について過失があった場合、台鉄は被害を受けた乗客(又は遺族)に対し損害賠償責任を負わなければならない。また、たとえ台鉄が本事故について何ら過失がなかったとしても、本条第2項に基づき、被害者に対し弔慰金又は医療・医薬補助金を支給しなければならない。

台鉄では、2018年10月にも「プユマ号」列車の脱線事故が発生し、18人が死亡するという甚大な被害が引き起こされたばかりである。3年もたたないうちに、更に甚大な「タロコ号」列車脱線事故が発生したことは、辛く受け入れがたいことである。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。

【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修