第378回 過失致死罪などの厳罰化法案

 4月22日、中華民国刑法第183条および第276条の改正草案(以下、「改正草案」といいます。)が行政院会議で可決されました。今回の改正草案は、4月2日に起こった台湾鉄路(台鉄)太魯閣(タロコ)号の脱線事故など、近年、公共交通機関の重大な事故が多発している点を考慮したものです。これらの事故において、多数の生命または身体にかかわる法益が侵害されているにもかかわらず、現行の過失致死罪(刑法第276条)では、最長でも5年の有期懲役しか科すことができず、罪刑の相当原則や国民の処罰感情に合致していないため、同罪を厳罰化する改正草案が提出されました。

 改正草案第276条では、従来の過失致死罪の規定に加えて、情状や法益侵害の結果の程度に応じて、処罰を加重する規定が設けられています。具体的には、過失致死罪の情状が重大な場合には、1年以上7年以下の有期懲役に処すこと、情状が重大かつ3人以上を死に至らしめた場合は、3年以上10年以下の有期懲役に処すことが可能になります。

 また、現行の刑法第183条第3項では、人が乗っている電車などの公共交通機関を過失により転覆または破壊した場合、3年以下の懲役に処す旨が規定されていますが、同条の改正草案では、同罪の情状が重大な場合には、5年以下の有期懲役に処するとされています。

情状を考慮

 日本における過失致死罪は極めて罪が軽く、最も重い場合でも、50万円の罰金に処されるのみです(日本刑法第210条)。しかし、業務上必要な注意を怠り、人を死亡させる業務上過失致死罪(日本刑法第211条前段)および重大な過失により人を死亡させる重過失致死罪(同条後段)の法定刑の上限は、5年以下の懲役もしくは禁錮とされており、台湾における現行の過失致死罪と同程度の処罰が科されます。また、日本刑法第129条第1項および第2項では、業務に従事する者が過失により、電車などを転覆・破壊した場合の法定刑の上限が3年以下の禁固とされており、こちらも台湾における現行の刑罰と同程度といえます。

 以上の通り、台湾における現行の過失致死罪などの罪は、日本と比較して軽いわけではありませんが、台湾政府は、重大な事故が発生した場合に「情重法軽」(情状が重大であるにもかかわらず、刑が軽い)になるのを避けることを重視しているようです。なお、現段階では、改正草案は行政院会議で可決されただけですので、正式に発効するためには、今後立法院での決議を経る必要があります。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 福田 優二

大学時代に旅行で訪れて以来、台湾に興味を持ち、台湾に関連する仕事を希望するに至る。 司法修習修了後、高雄市にて短期語学留学。2017年5月より台湾に駐在。 クライアントに最良のリーガルサービスを提供するため、台湾法および台湾ビジネスに熟練すべく日々研鑽を積んでいる。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。