電力を窃取した場合の法的責任

最近、台湾で特殊な窃盗事件が発生しました。親子3人が、電力を窃取したとして、裁判所から、それぞれ7カ月~9カ月の有期懲役に処すると同時に、台湾電力社(以下「台電社」といいます)に対し3934万台湾元を連帯して賠償せよとの判決が言い渡されました。

本件の概要は次のとおりです。被告人3人が、仮想通貨「ビットコイン(Bitcoin)」を取得するために、新北市の淡水区で4部屋、桃園市の平鎮区で2部屋を賃借し、それぞれに大量のコンピュータを設置して、「マイニング(コンピュータによる演算を通じて暗号化された仮想通貨を取得すること)」を行いました。「マイニング」には膨大な電力が必要であるため、被告人らは電力を得るために電線を台電社の変圧器に勝手につなぎました。

台電社は電力が盗用されていることを発見した後、警察に刑事告訴を提出しました。警察が調査したところ、2018年から、被告人らが各地域で窃取した電力が1000万キロワット時に上ることが判明しました。これは一般家庭100世帯が20年間連続使用するために供給するのに十分な電力量です。

最終的に、刑事責任については、台湾高等裁判所が、被告人らの行為は刑法第320条(他人の動産を自己または第三者の不法な所有とすることを意図して窃取した場合、窃盗罪となり、5年以下の有期懲役、拘留または50万台湾元以下の罰金に処する)、第323条(電気エネルギー、熱エネルギーおよびその他のエネルギーは、本章の罪に関しては動産として扱う)の電力窃取罪を構成すると判断し、被告人3人に対し7カ月~9カ月の有期懲役に処するとの判決を言い渡しました。

民事責任については、士林地方法院が新北市での盗電行為に関して、桃園地方裁判所が桃園市での盗電行為に関して、被告人らは台電社に対し2507万台湾元、1427万台湾元の計3934万台湾元の電気料金を連帯して賠償せよとの判決をそれぞれ下しました。

しかしながら、台湾メディアの報道によりますと、被告人らが数年来の「マイニング」により得た利益は100万台湾元を超えないとのことです。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。

【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修