医師が個人名義で医療広告を掲載することはできるか?

台湾の憲法法廷は2023年11月3日、2023年憲判字第17号判決を下し、医療法第84条「非医療機関は、医療広告を行うことができない」との規定における「医師による医療広告の禁止」に関する部分は違憲であると認定し、この部分は同日をもって失効となりました。

本件の概要は次のとおりです。

台北市の某医師が2015年10月に自身のフェイスブックのファンページに自身の美容クリニックが提供する治療コース、治療効果などに言及する投稿をしたところ、台北市の衛生局から当該広告は医療法第84条の「非医療機関は、医療広告を行うことができない」との規定に違反していると判断され、過料5万台湾元を支払うよう処分を受けました。同医師は当該処分を不服とし、不服を申立てましたが却下されたため、さらに行政訴訟を提起し、台北地方裁判所の行政法廷に受理されました。

台北地方裁判所の裁判官が本件について審理した結果、医療法第84条の規定は医師の憲法上の言論の自由を侵害しており、また、当該規定により「医療機関だけが医療広告を行うことができる」と制限していることは、医師の憲法上の職業の自由をも侵害していると判断し、同裁判官は、裁判手続の停止を決定し、医療法第84条が憲法に抵触するか否かの確認を大法官に申し立てました。そして、台湾では2022年より新しい憲法訴訟制度が実施されていたため、本申立事件は新設された憲法法廷が審理することとなりました。

憲法法廷が本件を審理するにあたり、台湾の医師会は「医療法第84条の規定により医療機関以外の『その他の機関(例えば美容所など)』が医療広告を行うことができないと制限することは合理性があるものの、『医師』が医療広告を行うことができないと制限する根拠としては正当性を欠いている」との意見を表明しました。一方、医師の主管機関である衛生福利部は逆の見解を表明しました。

最終的に、憲法法廷は2023年11月3日、2023年憲判字第17号判決を下し、「医療法第84条における医師による医療広告の禁止に関する部分は、憲法第11条の言論の自由の保障の趣旨に反する」と判断し、この部分は同日をもって失効となりました。これにより、医師が個人名義で医療広告を掲載することは、違法行為ではなくなりました。


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【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修