好ましくない行為をSNSで唱道した場合の刑事責任

台湾では近日、珍しい社会的事件が発生しました。この事件は、「ジェームズ」というインフルエンサーが2024年1月下旬に「大型スーパーでどうやって無償で飲み食いするか教えます」というタイトルでInstagramに複数の動画をアップロードしたというものですが、その動画は、当該インフルエンサーがPXマート、カルフールという台湾で有名な2つのスーパーマーケットチェーンの店舗において、ポテトチップス、キャンディ類、ヨーグルト飲料、ジュースなどの商品を勝手に開封して食べた後、商品棚に戻し、代金も支払わなかったという内容でした。ジェームズはさらに動画で食品を不味いと批判し、また、これは一種の「シェア」であり、大型スーパーでどうやって無償で飲み食いするかをネットユーザーに教えることが目的だと吹聴しました。

ジェームズのこの常軌を逸した行為は台湾社会の怒りを買いかつ強い非難を浴び、警察はその後すぐ1月29日に台中で当該インフルエンサーを逮捕し、刑法第153条の他人への犯罪教唆の罪、刑法第354条の毀損罪などを犯した容疑で台中地方検察署に移送し、引き続き捜査・処理を進めました。

台湾刑法第354条では、「他人の物を破壊・遺棄し、損傷し、または使えない状態にし、公衆または他人に損害を与えるに足りる場合には、2年以下の有期懲役、拘留または1万5000台湾元以下の罰金に処する」と定められています。ジェームズがスーパーの売り場で食べた食物や飲料はもう他人に販売できなくなってしまっているため、本罪の構成要件を満たしています。また、同法第153条では、「以下の各号に掲げるいずれかの行為を文章、絵や画像、演説またはそのほかの方法により公然となした場合には、2年以下の有期懲役、拘留または3万台湾元以下の罰金に処する。一、他人に犯罪を教唆したとき。二、法令に違反するまたは適法な命令を拒否することを他人に教唆したとき」と定められています。ジェームズがInstagramに動画をアップロードしてスーパーでどうやって無償で飲み食いするかネットユーザーに「教える」ことは、本条の「他人に犯罪を教唆」することにもほぼ該当します。

FB、Instagram、XなどのSNSを閲覧することはすでに多くの人の日常生活の一部となっており、動画を撮影してSNSにアップすることも、少なからぬ人の趣味、ひいては生計を立てる手段となっています。ただし、好ましくない行為をSNSにおいて文章または動画で提唱する場合には刑法上の犯罪に該当する可能性があることにご注意ください。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。

【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修