ロビー活動を規制するための法律(遊説法)について

2008年8月8日より、台湾において、民間人が政治家・官僚に対して行うロビー活動を規制するための法律(遊説法 )が施行された。
遊説法第2条によれば、同法の規制対象となるロビー活動とは、「法令、政策又は議案の作成、制定、可決、修正及び廃止についての意見を口頭又は書面により、直接に表明する活動」をいう。同法以外の法律の手続きに基づいて行われる申請、請願、陳情等の行為については、同法の規定は適用されない。
遊説法において、規制の対象となるロビー活動をする者(ロビイスト)及びロビー活動を受ける者は以下のように規定されている。

一、まず、ロビー活動をする者(ロビイスト)の定義については、ロビー活動を行う(1)自然人、(2)法人、(3)政府の許可を受けた又は政府に登録した民間団体、及び(4)特定の目的に基づいて設立された代表者のある団体とされている。
上記の自然人、法人又は団体は、ロビー活動の目的となる法令、政策又は議案の作成、制定、可決、修正及び廃止とは関係がない場合、ロビー活動をしてはならないとされている。また、ロビー活動の委託を受けた自然人又は営利法人もロビイストとされている。なお、専門職及び技術人員の高等試験 に合格していない自然人又はその定款にロビー活動が業務として記載されていない営利法人は、ロビー活動の委託を受ける者としては、ロビー活動をしてはならないとされている(第2条第2項及び第4条)。

二、総統、副総統、国と地方公共団体の代議士、地方自治団体の長及び政務人員退職撫?条例の第2条第1項に定められた者 がロビー活動を受ける場合、そのロビー活動は同法の規制対象となる(第2条第3項)。

次に、遊説法の重要な点は、以下のとおりである。

一、外国の政府、法人及び団体が台湾においてロビー活動を行う場合は、同法により台湾のロビイストに委託した上で行わなければならない。なお、外国の政府、法人及び団体は、国防、外交及び国家安全保障と国家機密に係る対中国関係の事務についてロビー活動を行ってはならない(第7条及び第8条)。

二、下記の者は、ロビー活動をしてはならない:
(一)第2条第3項に定められたロビー活動を受ける者は、国と地方公共団体の代議士を除き、退職後3年以内は、退職までの5年以内に勤務していた機関に対し、自己又は他人のためにロビー活動をしてはならない(第10条)。

(二)内乱罪、外患罪、詐欺罪、横領罪、背任罪、及び汚職治罪条例 と組織犯罪防止条例 に違反する罪を犯して、有期懲役以上の確定判決を受け、かつ執行猶予を受けなかった者は、ロビー活動をしてはならない(第11条)。

(三)国と地方公共団体の代議士は、本人又はその関係者 が経営する企業又はその投資総額が資本額の10%を超える企業のために、自らロビー活動をし、もしくは他人に委託することによりロビー活動をしてはならない(第12条第1項)。

三、ロビー活動を行うにあたっては、事前にロビー活動を受ける者が属する機関に対し、ロビイストの名前又は名称、ロビー活動を受ける者の名前と職種、ロビー活動の目的及び内容、ロビー活動の期間、ロビー活動に必要な金額の見積り等を、事前に登録しなければならない。なお、登録事項に変更がある場合、変更の登録をしなければならない。また、ロビー活動の終了後10日以内に、終了登録をしなければならない(第13条第1項、第2項及び第3項)。

四、ロビー活動をしてはならない者のロビー活動に対して、ロビー活動を受ける者が属する機関は、その登録の要請を却下しなければならない。また、ロビー活動を受ける者はそのロビー活動を拒否しなければならない。さらに、ロビー活動をすることができるが、事前に登録をしていない者によるロビー活動については、ロビー活動を受ける者は、そのロビー活動を拒否しなければならない(第15条)。

五、ロビー活動を受けた者は、ロビー活動を受けた7日以内に、その属する機関が指定する者に対し、ロビイストの名前又は名称、ロビー活動の時間、場所、方式及び内容を登録しなければならない(第16条)。

六、ロビイストは、毎年5月31日まで及び終了登録の際に、ロビー活動の財務の収支状況について報告表を作り、ロビー活動を受ける者が属する機関に報告しなければならない(第17条第1項)。

七、ロビー活動を受けた者が属する機関は、同法第13条、第16条の登録の内容及び第17条の報告表を四半期ごとにインターネット、政府広報又はその他の出版物に掲載しなければならない(第18条第1項)。

なお、遊説法には、同法に規定される義務に違反した際の処罰規定が盛り込まれている。たとえば、同法によりロビー活動をしてはならない者がロビー活動をした場合、当該ロビイストに対し、50万台湾ドル以上250万台湾ドル以下の過料を科することができる(第21条)。

次に、ロビイストが故意に虚偽の内容で事前登録又は変更登録をした場合、ロビー活動の財務の収支状況についてロビー活動を受ける者が属する機関に報告しなかった場合又は虚偽の報告をした場合は、20万台湾ドル以上100万台湾ドル以下の過料を科することができる(第22条)。また、ロビー活動を受けた者が、ロビー活動を受けた7日以内に、同法第16条の規定に従って登録しなかった場合、10万台湾ドル以上50万台湾ドル以下の過料を科することができる(第23条第3号)。

遊説法の成立により、台湾は、アメリカとカナダに続いて、ロビー活動を規制する法律を成立させた3つ目の国となった。台湾の行政院は、本法の施行が汚職と官民癒着の防止に資すると評価しているが、NGO・NPOなどの民間団体からの反応は芳しくない。つねにロビー活動をしなければならない立場にあるNGO・NPOなどの民間団体にとっては、同法の事前登録制度を強いられれば、ロビー活動に膨大な時間とコストがかかることは避けられない。さらに、財務状況が苦しい民間団体の場合、同法により高額の過料を科されれば、組織の運営が困難な状況に陥るおそれもある。

遊説法は、ロビイスト側からのロビー活動を規制対象とするが、政府の官僚又は代議士からロビー活動をしようとする者に接触すれば、同法の適用を回避できるのではないかという疑念の声が上がっている。また、総統、代議士及び地方公共団体の長に対するロビー活動は同法の規制対象となるが、その秘書、アシスタント等に対するロビー活動は同法の規制対象とはならないので、政治家・官僚の秘書、アシスタント等に対しロビー活動を行うことにより同法の適用が回避されるおそれがある。

なお、同法においてロビイストに対する処罰規定が多いのに対し、ロビー活動を受ける者に対する罰則は少ない。とくに、同法の規制に違反したロビー活動を受ける者に対する罰則は規定されていないので、同法は、ロビー活動を行う個人又は民間団体には非常に厳しい反面、ロビー活動を受ける官僚と政治家に対する規制は、不十分ではないかとの批判を受けている。

さらに、遊説法には適用上の問題点がある。すなわち、同法以外の法律の手続きにより行われる申請、請願、陳情等の行為については、同法の規定は適用されないが、実際に、同法の規制対象となるロビー活動と、同法以外の法律の手続きにより行われる申請、請願、陳情等の行為とを明確に区別できるのかという懸念がある。たとえば、台湾の行政手続法第168条によれば、国民は行政改革に関する提案、行政上の過失及び行政上の権利と利益の維持について陳情することができると規定されているが、この行政手続法上の陳情と遊説法のロビー活動をどのように区別するかは必ずしも明確ではない。以上のような遊説法の問題点に鑑みれば、将来同法が修正される必要があると考えられる。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は、当事務所にご相談ください。

【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修