台湾著作権法改正の関連情報

インターネットテクノロジーの発達に対応して2009年5月13日に公布された改正台湾著作権法においては、インターネットにおける複製及び送信により生ずる著作権の問題について、かなりの分量の新しい規定が追加されたため、今回の改正がインターネットサービスプロバイダー、著作権者及びインターネットユーザーの権益に与える影響は非常に大きい。今回の改正は、主に1998年の米国の「デジタルミレニアム著作権法」(Digital Millennium Copyright Act of 1998, DMCA)におけるインターネットサービスに関する規定を参考にして作成された。

今回の法改正においては、接続サービスプロバイダー、快速アクセスサービスプロバイダー、情報保存サービスプロバイダー、検索サービスプロバイダー等を含む四種類のインターネットサービスプロバイダーが規範の対象となっている。接続サービスとは、情報の送信(transmitting)、発信(routing)、接続(providing connections)の過程における媒介(intermediate)及び過渡的(transient)保存などのサービスをいう。

快速アクセスサービスとは、システム又はネットワークにより資料の媒介(intermediate)及び一時的(temporary)保存サービスを行うことをいう。情報保存サービスとは、ユーザーの指示により情報の保存を行うことをいう。検索サービスとは、インターネット情報の索引、参考又は連結の検索又は連結を提供するサービスをいう。

今回の法改正における最大の特徴は、インターネットサービスプロバイダーに民事賠償責任を免除する可能性を与えたことである。伝統的な民事上の「共同不法行為」概念によれば、インターネットユーザーが故意又は過失により他人の著作権を侵害した場合、インターネットサービスプロバイダーはそのインターネットユーザーの不法行為について、「共同不法行為」責任を負う可能性がある。そこで、プロバイダーの責任を制限するため、今回の法改正において、米国、欧州、日本などの法制度に照らし、インターネットサービスプロバイダーは、著作権を侵害する内容を削除したという法定要件を満たす場合には、賠償責任の免除を主張することができるという規定が設けられた。

通常、インターネットサービスプロバイダーは、インターネット上に掲載された内容に対して、それが他人の著作権を侵害するかどうかを判断する能力はない。したがって、インターネットにおける権利侵害内容の発見及び削除については、本法は「通知/取下げ」(Notice & Takedown)方式を採用している。即ち、著作権者が、インターネット上における権利侵害を発見した場合、改正著作権法第90の4条の規定により、自らインターネットサービスプロバイダーに通知し、削除するよう要求することができる。

インターネットサービスプロバイダーは、その通知を受けた場合、直ちに当該内容を削除し又は隠蔽させることができ、さらに第90の5条から第90の8条までの規定により、当該著作権者に対し共同不法行為の賠償責任を負わないことを主張することができる。

情報保存サービスプロバイダーは、直ちに権利侵害内容を削除する以外にも、第90の9条の規定により、著作権者による権利侵害の通知を、権利侵害の疑いのあるユーザーが残した連絡先情報に基づき、当該ユーザーに転送しなければならない。当該ユーザーは、こうした通知を受け、自ら不法行為の事実がないと判断した場合、回復通知(counter notification)を発行し、削除された内容を「回復」するよう、情報保存サービスプロバイダーに要求することができる。

情報保存サービスプロバイダーは回復通知を受けた場合、それを著作権者に転送しなければならない。このとき、著作権者が情報保存サービスプロバイダーに対し、すでに当該権利侵害の疑いのあるユーザーに対し訴えを提起したことの証明を提出できれば、当該サービスプロバイダーは回復について協力する義務を免れることができる。

但し、著作権者が訴えを提起したことの証明を提出できない場合、当該サービスプロバイダーは、削除された内容を回復しなければならない。
なお、インターネットサービスプロバイダーは、法定手続きにより権利侵害の疑いのある内容を削除又は回復した場合には、第90の10条により、そのインターネットユーザーに対し賠償責任を負わない。

【参考条文】

第90の4条

下記の規定に該当するインターネットサービスプロバイダーは、第90の5条から第90の8条までの規定を適用する。
一、契約、電子送信、自動検出システム又はその他の方法により、ユーザーにその著作権又は製版権の保護措置を通知し、かつ当該保護措置を確実に履行した者。
二、契約、電子送信、自動検出システム又はその他の方法により、権利侵害の事実が三回あった場合にサービスの全部又は一部を終了することをユーザーに通知した者。
三、通知文書を受け取る連絡窓口の情報を公告した者。
四、第三項の普遍的識別措置又は技術的保護措置を行った者。
接続サービスプロバイダーは、著作権者又は製版権者から、ユーザーの行為が権利侵害行為に該当することを通知された後に、当該通知を電子メールにより当該ユーザーに転送した場合、前項第1号の規定に該当するものと見なす。
著作権者又は製版権者が著作権又は製版権を保護するための普遍的識別措置又は技術的保護措置をすでに提供している場合において、所管官庁の許可を得たときは、インターネットサービスプロバイダーは、その実施に協力しなければならない。

第90の5条

下記の事由に該当した場合、接続サービスプロバイダーは、そのユーザーが他人の著作権又は製版権を侵害した行為につき、賠償責任を負わない。
一、送信した情報がユーザーにより発信又は請求されたものである場合。
二、情報の送信、発信、リンク又は保存が自動化技術により行われ、かつ、接続サービスプロバイダーが送信された情報に対しいかなる選別又は修正をも行っていない場合。

第90の6条

下記の事由に該当した場合、快速アクセスサービスプロバイダーは、そのユーザーが他人の著作権又は製版権を侵害した行為に対し、賠償責任を負わない。
一、快速アクセスした情報を変更していない場合。
二、情報の提供者が自動的に快速アクセスした原始情報に対し、修正、削除又は遮断を行うときに、自動化技術により同様の処理を行った場合。
三、ユーザーが権利侵害行為を行ったことを著作権者又は製版権者より通知された後、直ちに当該権利侵害行為に関する内容又は関連情報を削除し、又は他人がアクセスできないようにした場合。

第90の7条

下記の事由に該当した場合、情報保存サービスプロバイダーは、そのユーザーが他人の著作権又は製版権を侵害した行為に対し、賠償責任を負わない。
一、ユーザーが権利侵害行為を行ったとの事情を知らない場合。
二、ユーザーの権利侵害行為により直接に財産的利益を取得していない場合。
三、ユーザーが権利侵害行為を行ったことを著作権者又は製版権者より通知された後、直ちに当該権利侵害行為に関する内容又は関連情報を削除し、又は他人がアクセスできないようにした場合。

第90の8条

下記の事由に該当した場合、検索サービスプロバイダーは、そのユーザーが他人の著作権又は製版権を侵害した行為に対し、賠償責任を負わない。
一、検索又は連結した情報が権利を侵害するとの事情を知らない場合。
二、ユーザーの権利侵害行為により直接に財産的利益を取得していない場合。
三、ユーザーが権利侵害行為を行ったことを著作権者又は製版権者より通知された後、直ちに当該権利侵害行為に関する内容又は関連情報を削除し、又は他人がアクセスできないようにした場合。

第90の9条

情報保存サービスプロバイダーは、第90の7条第3号により処理した状況を、ユーザーと約定した連絡方法又はユーザーが残した連絡先情報に基づいて、当該権利侵害行為を行ったとされるユーザーに転送しなければならない。但し、提供するサービスの性質により通知することができない場合は、この限りでない。
前項のユーザーは、権利侵害の事実がないと考えた場合、回復通知文書を発行し、削除され、又は他人がアクセスできないようにされた内容又は関連情報を回復するよう情報保存サービスプロバイダーに要求することができる。
情報保存サービスプロバイダーは、前項の回復通知を受領した後、直ちに回復通知文書を著作権者又は製版権者に転送しなければならない。

著作権者又は製版権者は、情報保存サービスプロバイダーによる前項の通知を受領した翌日から10営業日内に、すでに当該ユーザーに対し訴えを提起したことの証明を情報保存サービスプロバイダーに提出した場合は、情報保存サービスプロバイダーは回復の義務を負わない。

著作権者又は製版権者が前項の規定により訴えの提起に関する証明を提出しない場合、情報保存サービスプロバイダーは、回復通知を転送した翌日から14営業日内に、削除され、又は他人がアクセスできないようにされた内容又は関連情報を回復しなければならない。但し、回復不能の場合は、事前にユーザーに通知し、又は他の適当な方法によりユーザーのために回復しなければならない。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は、当事務所にご相談ください。

【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修