台湾の「世界貿易機関(WTO)政府調達協定」への正式加盟

2009年6月8日、台湾は「世界貿易機関(WTO)政府調達協定」加盟書に署名し、7月15日よりWTO政府調達協定(GPA, the Agreement on Government Procurement) の締約国・地域の一つとなった。同協定は1994年4月、モロッコのマラケシュで作成され、1996年1月1日に発効した国際約束(条約)で、1995年12月には日本も同協定を締結し公布を行った。2009年8月現在41の国・地域が締約国・地域となっている。

台湾は以前より同協定加盟のために各国と積極的に協議を重ねてきた。また、台湾内における政府調達に関する法制度を確立し、同協定加盟に対する国際的な支持の強化を図るべく、2002年2月6日に「政府採購法」(政府調達に関する法律)を公布施行した。同法の構造及び主要な内容は全て同協定の構造や理念を踏襲している。

しかし同法はその性質としては国内法の一つであり、規範の対象となるのは台湾内における調達のみで、台湾政府及び台湾企業のみを対象としたものであり、外国人・外国企業に対して内国民待遇を与えてはいない。同法第4条が示す「平等互恵の原則」に基づき、入札参加を希望する外国人・外国企業は、当該外国人・外国企業の本国が台湾と政府調達に関する条約或いは協定を締結した後、入札に参加することが許されている。

ただし、当該外国人・外国企業の本国において、当該国の政府調達に関して台湾企業の参加が禁止或いは制限されている場合、台湾政府は入札参加を希望する当該外国人・外国企業による政府調達について禁止或いは制限することができる。このほか、政府調達が原因となった紛争の解決に関しては、原則として台湾において台湾法による解決のための手続きが行われる。

しかし、WTO政府調達協定に署名し正式加盟した後、将来的には同協定第3条に基づき、明記された例外項目を除いて、台湾政府は入札参加を希望する外国人・外国企業に対して、台湾の入札参加希望者と差別せず、内国民待遇を与えなければならなくなる。また、政府調達に起因する紛争に際しては、国内における解決のための申立てのほか、同協定第22条に基づき、直接WTOの紛争解決機関を通して、締約国・地域間で解決のための手続きをとることができることとなる。

台湾における主管機関である行政院公共工事委員会の現段階の意見では、同協定正式加盟後の外国人・外国企業に対して解放される政府調達金額は、毎年少なくとも60億米ドルに達すると予想されている。
行政院公共工事委員会により提示された政府調達の手続きについては次のとおりである:

  1. 政府調達の公示については、GPAが適用される場合、中国語だけでなく英語での入札募集の公示を行う。
  2. 各調達機関による入札募集の書類については、原則として中国語による説明のみとする。
  3. 各入札希望者は、入札に係る書類については、原則として中国語により作成したものを提出しなければならない。但し、各調達機関は個々の状況を考慮し、中国語以外で作成された書類の原本を受理し、改めて当該書類の翻訳について公証或は認証を受けたものを受理することができる。
  4. 各調達機関は、価格の提示を新台湾ドルのみに制限することができる。外国企業は、台湾における営業代理人によって、調達を行う機関に対して支払いを請求しなければならない。新台湾ドル以外の貨幣による価格提示の是非については、各調達機関の入札募集書類の記載内容を基準とする。

今回の台湾の同協定への正式加盟により、台湾は日本と同様に締約国・地域となり、GPA締約国・地域の政府調達市場参入の機会が与えられることとなった。将来、日本の政府調達案件への参加も予想される。

以上


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【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修