台湾「労働基準法」改正草案に関する情報

1. 労働者派遣

台湾の現行の労働基準法には、労働者派遣についての明文規定がない。労働者派遣は、この数年の間に台湾で盛んに行われるようになり、台湾の行政院主計処による最近の統計資料によれば、臨時雇用労働者及び労働者派遣の総人数は既に50万人に達している。このように膨大な数の労働者が派遣という労働形態で働いているが、労働基準法には労働者派遣についての明文規定がないため、労働者派遣に関連する労使争議が頻繁に発生している。

今回の改正草案では、労働者派遣に関連して、派遣事業組織、派遣を必要とする組織(派遣先)、派遣労働者、派遣契約等の定義が明確に盛り込まれている。また、企業が使用できる派遣労働者の人数については、労使関係の安定を図るため、原則として事業組織の総人数の10%を超えてはならないと規定されている。このほか、労働者派遣がもたらす不安定な労使関係が職場における安全性を損なうおそれがあること、法律により別途任用のルートが規定されていること等(注1参照)を考慮し、医療・警備・航空・船員・大衆輸送・採掘等の業種は、いずれも派遣労働者を使用することができないとされている。

このほか、雇用主が短期契約の締結により長期雇用を避けることを回避するため、草案には労働契約は不定期間契約を原則としなければならないことも規定されている。但し、「雇用主が特定の期間において完成させることのできる業務のために労働者を雇用する場合」、「経営上の一時的な必要により労働者を雇用する場合」、又は「労働者の賃金が政府の就業促進計画経費等から支出されている場合」であれば、労働者と定期間契約を締結することができるとされている。

2. 労働者の「最低勤務年限」を約定することの原則的禁止

労働者が最低勤務年限の満了前に任意に離職できないようにするため、最低勤務年限の満了前の離職について、巨額の賠償金を事前に約定する傾向があったが、これを回避するため、本草案には最低勤務年限を約定することを禁止する規定が盛り込まれている。但し、「労働者の具備する専門の技術及び知識が、雇用主が一定の業務を完成させるために必要である場合」、及び「雇用主が労働者のために専門技術のトレーニングを行い、専門トレーニング費用を提供している場合」においては、このような約定は例外的に認められている。さらに、労働者の責めに帰することのできない事由により、労働者が最低年限の満了前に離職した場合、労働契約に違約金又は賠償金について約定がなされていたとしても、労働者は原則として賠償責任を負わないとされている。

3. 労働者の「離職後の競業避止」を約定することの原則的禁止

台湾の労働関連法令には、労働者の「離職後の競業避止」を約定することについての明文規定はなく、これまで禁止されていなかった。しかし、台湾の裁判所は、雇用主が労働者と不合理な競業避止条件、又は不合理な競業避止期間を約定した場合、このような約定は無効、又は比較的長期の競業避止期間については短縮する旨の判決を下していた。二年を超えた競業避止期間を二年までに短縮させられた判例も散見される。
今回の草案は、裁判所のこれまでの見解を明文化している。まず、下記の四つの条件を満たさない場合、離職後の競業避止についての約定は無効とされる。

  1. 競業避止についての約定が雇用主の正当な営業利益を保護することを可能とする場合。
  2. 元の勤務先における労働者の職位がその雇用主の営業秘密を知り得る場合。
  3. 競業避止条項により禁止される期間・区域・職業活動の範囲・再就業先が合理的な範疇を超えていない場合。
  4. 競業避止について約定する場合、労働者が競業行為に従事しないことにより被る損害について合理的な補償を行わなければならない。
    さらに、離職後の競業避止期間は、2年が上限とされている。

労働者委員会は各界からの意見を聴取した後、適切な修正を行い、改正案の内容を確定させる。確定した改正草案は台湾の立法院に送られ、審議されることになる。

(注1)台湾の「医事人員人事条例」の第5条によると、各医療機関が外部から医療人員を採用する際、法的手続きに従い、有資格者の中から公開競争の方式でこれを選任しなければならないとされている。そのため、医療人員を派遣労働者として雇用してはならないことになる。


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【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修