「証券取引法」に関する台湾行政院金融監督管理委員会の解釈令

台湾の会社法第27条第2項は、「政府又は法人が会社の株主である場合、当該政府又は法人が指定する代表者は、董事(注1参照)又は監査役として選任されることができる。指定された代表者が複数いる場合は、それぞれ選任されることができる。」と規定している。

この規定によれば、親会社が指定する代表者が複数いる場合、当該代表者が子会社の董事及び監査役に同時に就任することが可能になる。しかし、親会社から派遣される代表者が、子会社の董事及び監査役に同時に就任することを許容すると、実質的に自己が自己を監督することとなり、会社の内部監督機能を発揮できなくなるおそれがある。

そこで、株式公開発行会社における内部監督及び証券取引市場の健全化のため、2007年より、株式公開発行会社については、台湾の証券取引法第26条の3第2項において、前記会社法第27条第2項に対する例外規定が設けられた。すなわち、証券取引法第26条の3第2項の規定により、政府又は法人が株式公開発行会社の株主である場合、主管機関である行政院金融監督管理委員会の同意を得た場合を除き、政府又は法人株主から指定された代表者は当該会社の董事及び監査役に同時に就任することはできないとされた。

しかし、上記例外規定が設けられた後も、台湾の株式公開発行会社では、上記趣旨を理解していながら、別に子会社を設立する方法を用いて、証券取引法第26条の3第2項の適用を逃れているケースが多数見受けられた。たとえば、A社がB社の筆頭株主である場合において、A社から派遣された代表者が既にB社の董事に就任しているときに、A社はさらに代表者を派遣してB社の監査役に就任させることはできない。

しかし、A社が100%の出資比率で子会社C社を設立すれば、A社はC社から代表者を派遣させB社の監査役に就任させることができる。A社とC社は同一法人ではないが、A社はC社を完全にコントロールできる立場にあるため、C社の代表者がB社の監査役に就任することを許容すれば、実質的に自己が自己を監督することとなり、証券取引法第26条の3第2項の趣旨に反することになる。行政院金融監督管理委員会が会社の監督管理を行った際、実際に上記事例に類似する状況が認められた。

そこで、行政院金融監督管理委員会は、上記のような脱法行為を防止するため、行政院法務部等の機関と検討を行い、2010年2月に解釈令を発布した。同解釈令によれば、証券取引法第26条の3第2項のいわゆる「法人から派遣された代表者」には、親会社から派遣される代表者のほか、当該親会社に従属するその他の法人から派遣される代表者も含まれるとされている。

上記事例を例にとれば、A社がC社の過半数の議決権付株式を有する場合、A社のC社に対する出資額がC社の資本総額の半数を超えている場合、あるいはA社が実質的に人事、財務もしくは業務経営上C社をコントロールしている場合においては、A社から派遣された代表者がB社の董事に就任したときには、同時にA社がC社に指示して代表者をB社の監査役に就任させることはできなくなる。

また、A社から派遣された代表者がB社の監査役に就任したときには、同時にA社がC社に指示して代表者をB社の董事に就任させることもできなくなる。

当該解釈令は公布日より効力が発生している。しかし、台湾では同解釈令の公布日以前から解釈令に反する状況にある会社が多数ある。そこで、同解釈令において、親会社から派遣される代表者が董事又は監査役に就任しているのと同時に、当該親会社に従属するその他の法人から派遣される代表者が現職の董事又は監査役に就任している場合には、親会社に従属するその他の法人から派遣された董事又は監査役の現在の任期が満了するまでは、当該董事又は監査役はその職に留まることができるという規定が設けられた。

(注1)日本法における、取締役に相当する。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は、当事務所にご相談ください。

【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修