台湾の「医療法」の改正

近年、韓国、シンガポール、タイなどのアジアの国々では、高度かつ低価格の医療サービスにより外国人観光客を呼び込むという医療観光産業の発展において高い成果を得ている。そのため、台湾政府は、台湾の医療もかなり高い水準を有していることから、医療観光の発展により外国資本を誘致し、経済発展を促進したいと考えている。

台湾の現行医療法第4条によれば、私立病院は医者が設立しなければならない。即ち、医者の資格がない者は私立病院を設立することができない。また、現行医療法において、病院は営利事業組織ではなく、会社形態で病院を設立することもできない。当然のことながら、病院について株式を発行することもできない。

しかし、医療観光産業を発展させるという目的のため、台湾の行政院は今年3月に医療法の改正案を可決した。医療法の改正法案の第4条によれば、台湾において私立病院は医者が設立しなければならないが、国際医療業務を専門に行う病院の場合、会社形態で設立することができる。さらに、同改正法案の第90条によれば、台湾の行政院衛生署は、前記の国際医療業務を専門に行う病院を設立するための特定の区域を指定することができる。

当該改正法案が立法院を通過すれば、台湾の行政院衛生署が指定する特定の区域内において、国際医療を専門に行い、外国人の患者を対象とする病院を設立する場合、会社形態で設立することが可能になる。この場合、病院は株式を発行することができるほか、株主に対して配当を行うこともできると考えられる。

会社形態で設立される病院は外国人の患者を対象とするため、改正法案では、会社形態で設立される病院は台湾の全民健康保険(注1参照)が適用される病院になることはできないと規定されている。外国人は自己費用のみをもって医療サービスを受けることができる。また、同法案の規定によれば、外国人患者を対象として会社形態で設立される病院は、行政院衛生署が許可する範囲内で台湾人に対し医療サービスを提供することができる。但し、この場合、台湾人は自己費用で医療サービスを受けなければならず、全民健康保険を適用することはできない。

また、医療法において規定される私立病院に対する行政処罰の対象者は、私立病院の責任者、即ち医者とされているが、医療法の改正法案では、会社形態で設立された病院の場合、会社が処罰の対象となっている。

上記の医療法の改正法案に対し、医療は営利の行為であってはならず、医療の目的は人種や階級を問わず同じ治療を受けられることにある、と批判する人もいる。病院を会社化させ、かつ外国の富裕層を取り込むことを目的とすることは医療の本質に合致しない、という意見もある。また、特定の区域において外国人の誘致を目的として会社形態で病院を設立することは、能力の高い医者が当該病院に流れ、裕福な外国人のためにのみサービスを提供し、台湾人に対する医療サービス水準が低下する可能性がある、という批判もある。

医療法の改正法案は台湾の行政院を通過し、立法院における審議に入っている。台湾の行政院長は、行政院衛生署及び観光局に対し、医療観光産業の発展に力を注ぎ、台湾の医療観光産業の国際的知名度を高めるよう指示している。しかし、医療法の改正法案について上記のような批判的な世論もあるため、当該法案は台湾の立法院において更に論議される可能性がある。

(注1)日本における、国民健康保険に相当する。


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【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修