台湾民法における保証契約に関する規定の改正

保証契約とは、主たる債務者が債務を履行しない場合、代わりに保証人が履行責任を負うことを約定する契約である。保証契約により生じる債務について、現行の台湾民法第745条では「保証人は、債権者が主たる債務者の財産について強制執行をしても効果を得ない場合を除き、債権者に対し弁済を拒むことができる。」と規定され、台湾民法第746条では「下記の事由のいずれかに該当する場合、保証人は前条の権利を主張することができない。

一、 保証人が前条の権利を放棄した場合。

二 、保証契約成立後、主たる債務者の住所、営業場所又は居所が変更され、主たる債務者に対する弁済の請求が困難となった場合。

三、 主たる債務者が破産宣告を受けた場合。

四、 主たる債務者の財産がその債務の弁済に不足している場合。」

と規定されている。

台湾民法第745条の規定によれば、保証債務の弁済について、債権者が主たる債務者の財産について強制執行をしても効果を得ない場合を除き、保証人は債権者に対し弁済を拒むことができる。この保証人の抗弁権は、台湾では通常「先訴の抗弁権」と呼ばれる。

しかし、上記の台湾民法第746条の規定によれば、保証人が「先訴の抗弁権」を放棄している場合や、保証契約成立後、主たる債務者の住所、営業場所又は居所が変更され、債権者から主たる債務者に対する弁済の請求が困難となった場合、保証人は債権者に対し「先訴の抗弁権」を主張することができない。

そのため、台湾における保証契約の実際の運用においては、例えば、一般人が銀行から借入を受け、保証人による債務の保証を要求された場合、銀行が提供する定型契約書には「保証人は民法第745条の権利を放棄することに同意する」と規定されている場合がほとんどである。

このような規定がある場合、債権者が主たる債務者に借入金債務の弁済を請求する前に保証人に弁済を請求すれば、保証人は債権者の請求を拒むことができない。さらに、台湾民法第746条第2号の規定があるため、たとえ保証人が事前に「先訴の抗弁権」を放棄していない場合であっても、主たる債務者が債務の履行を逃れるために行方不明になったときは、債権者が先に主たる債務者の財産について強制執行をしても効果を得ない場合でなくとも、債権者は保証人に対し直接債務の弁済を請求することができる。

上記のとおり、台湾民法第746条の規定が国民生活に与える影響が甚大であるため、改正の必要があると考えた台湾立法院の議員が台湾民法第746条第1号、第2号の削除を提案した。立法院での討議の結果、立法院は台湾民法第746条第2号を削除する改正案を可決した。台湾民法第746条の改正案の発効後は、たとえ主たる債務者が債務を逃れるために行方不明となった場合でも、保証人は、債権者が主たる債務者の財産について強制執行をしても効果を得ない場合でない限り、債権者に対し弁済を拒むことができる。

なお、台湾民法第746条第1号を削除すれば、保証人に「先訴の抗弁権」を放棄させることができなくなるが、議員が提出した台湾民法第746条第1号を削除する提案については、現在の経済秩序に対する影響が多大であると判断されたため、立法院において可決されなかった。

しかしながら、立法院は付帯決議を可決し、台湾の金融監督管理委員会に対し、今回の台湾民法第746条の改正案の公布後6ヶ月以内に、車の購入、家の購入についての金融業者による貸付や消費貸借等の定型契約書において、保証人が台湾民法第745条の権利を放棄する旨の規定を制限するための規定を制定するよう要求した。台湾民法第746条の改正案の公布及び上記の金融監督管理委員会の規定制定後は、銀行等の金融業者が保証人から債務の弁済を得ることが難しくなるため、貸付の際には銀行等の金融業者による審査がより慎重になることが予想される。


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【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修