台湾公平交易法の改正について

台湾の「公平交易法」は、取引秩序及び消費者の利益を維持・保護し、公平な競争を確保し、経済の安定性を促進するために制定された法律である。「公平交易法」は、事業者の独占、結合、通謀等の行為に対して規制するほか、不公正な取引方法に対する規制についても規定している。

「公平交易法」における不公正な取引方法に関する規制の中には、事業者が内容不実の広告を行うことを禁ずる規制がある。例えば、消費者が内容不実の広告により判断を誤り、当該広告の宣伝する商品又はサービスを購入して損害を受ける場合があることから、消費者を保護するため、「公平交易法」第21条は、元来、次の通り規定していた。

「事業者は、商品若しくはその広告において、又はその他公衆をして知らしめる方法をもって、商品の価格、数量、品質、内容、製造方法、製造日、有効期限、使用方法、用途、原産地、製造者、製造地、加工者、加工地等について、虚偽不実の又は人を錯誤に陥らせる表示又は表現を行ってはならない(第1項)。

事業者は、前項における虚偽不実の又は人を錯誤に陥らせる表示がなされた商品について、販売、運送、輸出又は輸入をしてはならない(第2項)。

前二項の規定は、事業者が行うサービスに準用する(第3項)。

広告代理業者が、知り又は知ることができたにもかかわらず、人を錯誤に陥らせる広告を製作又はデザインした場合は、広告主と連帯して損害を賠償する責任を負う。広告媒体業者が、その放送又は掲載する広告が人を錯誤に陥れるおそれのあることを知り又は知ることができたにもかかわらず、放送又は掲載した場合にも、広告主と連帯して損害を賠償する責任を負う(第4項)。」

上記の「公平交易法」第21条の規定は、事業者又は広告代理業者が内容不実の広告を作成した場合の法的責任についてのものである。その一方で、台湾においては常々、薬品、食品等の商品広告に有名人や芸能人が出ている。有名人や芸能人が広告に登場し、当該広告の強調する商品又はサービスのために宣伝を行う場合、一般の消費者に対する影響はより大きくなる。

従って、当該広告内容に不実の事由があれば、社会大衆に対して及ぼしうる損害も、より大きなものとなる可能性がある。そこで、国会議員は、カナダ等の外国法規を参考にして、事業者又は広告代理業者に対して規制を行うほかに、広告に登場して商品又はサービスのために宣伝を行う有名人等に対しても、「公平交易法」で規制すべきと考えた。

その結果、台湾の国会議員の発議のもと、台湾の立法院は「公平交易法」第21条の改正案を可決し、「公平交易法」第21条第4項に追加して、次のような改正を行った。「広告代理業者が、知り又は知ることができたにもかかわらず、人を錯誤に陥らせる広告を製作又はデザインした場合は、広告主と連帯して損害を賠償する責任を負う。

広告媒体業者が、その放送又は掲載する広告が人を錯誤に陥れるおそれのあることを知り又は知ることができたにもかかわらず、放送又は掲載した場合にも、広告主と連帯して損害を賠償する責任を負う。広告推薦者が、自らの推薦行為が人を錯誤に陥らせるおそれのあることを知り又は知ることができたにもかかわらず、推薦を行った場合は、広告主と連帯して損害を賠償する責任を負う。」(下線部分は、今回の改正で新たに第21条第4項に追加された部分)。

改正により公平交易法第21条第4項に追加された「広告推薦者」の定義に関しては、国会議員が21条5項を追加し、「前項でいう広告推薦者とは、広告主以外であって、広告中で商品又はサービスに対する意見、信頼、発見又は自己の体験結果を報告する人又は機構を指す」と規定した。

元々、国会議員が「公平交易法」第21条の改正を提案した時点では、有名人又は芸能人が内容不実の広告に出るケースについて規制しようとしただけであった。しかし、新たに改正された「公平交易法」第21条第5項によると、有名人や芸能人ではない一般人が内容不実の広告に出て、当該商品又はサービスのために宣伝を行う場合にも、法的責任を負う可能性がある。

上記の「公平交易法」第21条改正案は、既に台湾の立法院を通過しており、2010年6月9日に台湾総統の公布を経て正式な法律となっている。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は、当事務所にご相談ください。

【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修