従業員に対する罰則

台中地方裁判所の2014年3月28日の[2013年度労訴字第108号]の判決によれば、労働基準法第70条第6号及び第7号により、雇用主は会社の就業規則において罰則事項を定めることが許されているが、雇用主の懲戒権は法律の制限を受け、また、罰則の内容は比例原則等の原則に合致していなければならないとされた。

本件の概要は以下の通りである。
甲は1983年から乙会社に雇用され、2007年6月から乙の高級職員となり、毎月の賃金は48,470台湾ドルであった。

2010年9月、甲個人が複数の銀行から借りている未弁済の期限到来債務が約200万台湾ドルに達していることから、金融機関からの借入金、又は保証人となっている金融機関からの借入金を、弁済期限を3ヶ月経過しても弁済していない場合、乙の従業員となることはできない、という乙の就業規則第18条第5号に違反しており、乙ののれんを損なっているとして、乙は甲を高級職員から中級職員に降格し、賃金も毎月48,470台湾ドルから31,820台湾ドルに減給した。

これに対し、甲は乙の処分を不服とし、乙を被告として、2010年9月から2013年9月までの甲の降格期間の賃金、賞与等の差額として、合計約90万台湾ドルを支払うよう要求した。

裁判所は審理の上、乙による降格処分は違法であると判断し、甲の全面勝訴とする判決を下した。裁判所の主な判決理由は以下の通りである。

  1. 労働基準法第70条第6号及び第7号により、雇用主は会社の就業規則において、罰則事項を定めることが許されているが、雇用主の懲戒権は法律の制限を受け(労働基準法第12条の解雇事由等)、また、懲罰の内容は明確性の原則、比例原則、二重処分禁止等の原則に合致していなければならず、また、処罰の手続きは合理的かつ正当なものでなければならない。
  2. 甲は、期限到来債務を未弁済であるが、これは甲個人の金銭貸借関係であり、必ずしも乙ののれんを損なうものではなく、また、乙も、甲個人の負債が乙の営業に対しいかなるリスク又は損失をもたらすかを立証していない。
  3. 乙の就業規則の他の規定によれば、乙は従業員に対し降格処分より軽い処分を行う場合でも、当該従業員の行為が乙に損害をもたらすことについて具体的な証拠を提出しなければならないが、本件において、乙は、甲の負債が乙にどのような損害をもたらすかを立証せずに乙を降格処分としており、乙の処罰は比例原則に合致していない。

ほかにも、雇用主が、就業規則において適法、適切な罰則規定を定めないまま、従業員に処罰を行った結果、裁判所に当該処罰が無効であるという判決を下されている例が散見される。よって、既存の罰則条項の適法性、妥当性を再検査し、又は外部の専門家に検査を依頼すべきである。


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【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修