従業員による会社のファイル削除事件と附帯民事訴訟

今年3月下旬、新竹地方検察署は、従業員が自己の勤務する会社のコンピューターの保存ファイルを削除した行為について、刑法第359条の「正当な理由なく電子記録を削除した罪」に基づき起訴をした。本件の概要は以下の通りである。

AはB社の研究開発部門のマネージャーであった。B社は、2014年3月以降AがB社の開発中の製品のソースコード、回路基板図、規格などの営業秘密データをB社の同意を得ずにUSBなどの装置に保存した後、B社の競合相手に渡していたということに気付いた。B社はこれを理由として、14年6月にAを解雇した。

しかし、Aは同月、B社で退職および引継手続を行っている際、同僚が見ていない隙を狙ってB社のコンピューターの中の約15000個の製品研究開発ファイルを削除した。 B社はAに対し刑事告訴を提起した。これを受けた新竹地方検察署は、最終的に刑法第359条の 「正当な理由なく電子記録を削除した罪」をもってAを起訴した。

また、Aが削除したファイルはいずれも元に戻すことができず、B社に甚大な損害をもたらしたため、B社はAに対し別途、刑事附帯民事の損害賠償訴訟を提起した。

刑事訴訟法第487条以下の規定によれば、犯罪により損害を受けた者は、検察官が犯罪容疑者を起訴した後、附帯民事訴訟を提起し、損害賠償を請求することができるとされている。附帯民事訴訟を提起するメリットは、原告(被害者)が一般民事訴訟を提起する際に納付しなければならない裁判費用(およそ請求額の1%)を支払う必要がないという点にある。

また、犯罪容疑者の犯罪行為は既に検察官の調査、認定を経ているため、附帯民事訴訟において原告(被害者)が勝訴する可能性は比較的高い。そのため、刑事事件の被害者にとっては、附帯民事訴訟を提起することは積極的に検討できることであると言える。



注:「正当な理由なく電子記録を削除した罪」
他者のコンピューター又はその関連設備の電子記録を正当な理由なく取得、削除又は変更したことにより、公衆又は他者に損害を与えた場合、五年以下の懲役、拘留に処し若しくは二十万台湾元以下の罰金を科し又はこれを併科する。


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【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修