第289回 エバー航空労組が要求した「労働者董事」とは

航空会社大手、長栄航空(エバー航空)の客室乗務員の労働組合が2019年5月20日より大規模なストライキを発動し、注目を集めている。

当初の労組の要求は、(1)日当(Per Diem、1日当たりの手当)を1時間当たり150台湾元(約520円)に引き上げ、ストライキに参加していない労組の組合員には適用してはならないこと(2)祝日に出勤する場合は2倍の賃金を支払うこと(3)客室乗務員の既存の労働条件および就業規則を変更する前に労組と協議すること(4)会社の経営に関与するため「労働者董事」を設置すること──などの8項目だった。

対象は国営事業

いわゆる「労働者董事」とは、労組に参加する労働者の中から選任された会社董事を指す。

その法的根拠は国営事業管理法第35条第2項、すなわち「(第1項)国営事業者の董事、監査役または理事、監事は、その他の国営事業者の董事、監査役または理事、監事を兼任してはならないが、合併を推進するためまたは持ち株会社を設立するために兼任する場合、一つの職位のみを兼任することができる。ただ、董事または理事に就任する場合、監査役または監事を兼任してはならず、その逆も同様で、その一方、董事長、副董事長または相当する職位に選任されることができる。(第2項)前項の董事または理事が政府の持ち分を代表する場合、少なくとも5分の1の席は、国営事業者の主管機関が労組の推進・派遣する代表者を起用して就任させる必要がある」である。

労働者董事を設立する目的は、労働者が会社の経営および管理に関与することを通じて、労働者の権益が侵害されないことを保障すること、労働者と会社の連携関係を強化することにより労働者側の会社への求心力を向上させることにある。

本来ストと無関係

しかし、現行法規によると、政府の持ち株が50%を超える国営事業でない場合は労働者董事を設置することができないため、エバー航空のような民間企業は労働者董事を設置することができない。

また、労使争議処理法によれば、賃金、労働時間など労働条件に関わる事項のためにしか、労働者はストライキを起こすことができず、労働者董事を設置することは、労働条件とは無関係である。

エバー航空の労組が提示した「労働者董事」に関する要求は明らかに適法性について問題がある。エバー航空の使用者側は台北地方法院(地方裁判所)に訴訟を提起し、今回のストライキは不法なストライキであると主張し、労組に対してストライキにより発生した関連する営業損失を請求している。

ストライキに参加しているエバー航空の客室乗務員は2,000人を超えており、マスコミの報道によれば、今回のストライキによりフライトがキャンセルされ影響を受けた旅客、旅行業者などは、延べ20万人を超えている。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。