第287回 一人会社の再簡略化について

1つの法人株主の会社について

台湾での株式会社の起業に当たっては、個人の場合、2人以上の発起人が必要条件となります。ただし、法人を発起人とする場合には、1つの法人によって可能です。この場合、発起人会議は不要で、株主は当該の1つの法人のみなので株主総会の開催も不要で、その職権は取締役会により行使してよい(会社法第128条の1《以下同》第1項)と定められています。株主総会は開催しないため、取締役と監査役は当該法人株主による指名・派遣で済ませることができます(同条4項)。このような会社は「一人会社」と呼ばれ、一般の会社と比べると組織が簡略化されています。

なお、2018年の会社法改正により、一人会社の組織はさらに簡略化が図られました。以前は、たとえ株主が1つの法人であっても、自然人の取締役3人、監査役1人を指名・派遣しなければなりませんでした。法律に従うために、名目上の取締役・監査役が起用されるケースもあり、人件費の無駄使いや役員が独走するリスクも生じ得ました。

取締役1名のみで設置可能

会社法の改正後、一人会社は定款で明記すれば、取締役会を設置せずに、取締役1~2名のみを指名・派遣できるようになりました。取締役1名のみを指名・派遣する場合、その取締役は当然代表取締役となり、当該代表取締役が取締役会の職権を行使します(同条2項)。つまり、取締役会の開催も必要なくなりました。

監査役の設置不要に

また、一人会社の場合、経営陣が責任を負う対象である株主が他にいないため、監査役を設置する実益もなくなりました。よって、会社法改正後、一人会社は定款で明記すれば、監査役を設置しなくてもよくなりました(同条3項)。

つまり、一人会社の組織を最も簡略化する場合、代表取締役1名のみで設立することができるのです。この法律は、外国会社が100%所有する台湾子会社にも適用されます。

既存の日系会社が100%所有する台湾子会社には、取締役3人、監査役1人が指名・派遣されている場合が多いため、今回の法改正をきっかけとして台湾子会社の組織を見直すことも考えられます。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 鄭惟駿

陽明大学生命科学学部卒業後、台湾企業で特許技術者として特許出願業務に従事した後、行政院原子能委員会核能研究所での勤務を経験。弁護士資格取得後、台湾の法律事務所で研修弁護士として知的財産訴訟業務に携わる。一橋大学国際企業戦略研究科を修了後、2017年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。