第294回 支払督促

事業活動において、契約の相手方が契約で定められた期限までに金銭の支払いをしてくれない場合など、強制的に債権を回収したい場面もあるかと思います。しかし、相手方が契約に違反するとすぐに強制執行が可能になるわけではなく、強制執行をするには、給付請求権の存在およびその範囲を示した公文書である「債務名義」が必要になります。

この債務名義に該当するものとしては、確定判決や民事訴訟法の規定に従い成立した和解調書・調停調書などがあります。これらを得るには、一般的に多くの時間と費用を要します。

これに対し、支払督促という制度を利用すると、場合によっては、比較的簡単に債務名義を得ることができます。

支払督促制度の利用方法

支払督促制度を利用できるのは、債権者の請求が、「金銭またはその他代替物もしくは有価証券の一定数量の給付を目的とする場合」に限られます(民事訴訟法第508条第1項)。また、反対給付が未履行の場合、支払督促の送達先が海外である場合、または公示送達(相手方が分からないなど)となる場合には、支払督促制度を利用できません(同法第509条)。

支払督促の申し立ては1件につき500台湾元(約1,740円)で、請求の原因を釈明する証拠(契約書など)を添付する必要があります。支払督促の申し立てがあると、裁判所は債務者側に意見等を求めることなく、裁定を下します(同法第512条)。支払督促の送達後20日以内に債務者が異議を提出しない場合、当該支払督促を債務名義とすることができます(同法第521条第1項)。

異議が出された場合

以上のように、支払督促制度を利用すると、うまくいけば、20日で強制執行に必要な債務名義を得ることができます。

しかし、支払督促に対する異議には、理由を付す必要がなく(同法第516条第1項)、異議が出された場合、支払督促は当該異議の範囲内で効力を失い、債権者による支払督促の申し立ては、訴訟の提起または調停の申し立てと見なされることから(同法第519条第1項)、直接訴訟を提起する方法と比べて、結果として遠回りになる可能性もあります。

そのため、相手方の反応を予測しつつ、支払督促制度の利用の適否を検討する必要があります。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 福田 優二

大学時代に旅行で訪れて以来、台湾に興味を持ち、台湾に関連する仕事を希望するに至る。 司法修習修了後、高雄市にて短期語学留学。2017年5月より台湾に駐在。 クライアントに最良のリーガルサービスを提供するため、台湾法および台湾ビジネスに熟練すべく日々研鑽を積んでいる。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。