第307回 台湾法上の刑の執行猶予

高雄市で最近、40年余りにわたって重度の知的障害を持つ妹の世話をしてきた56歳の女性が、あまりに大きなストレスを苦に、妹と一緒に自殺を図る事件が発生しました。幸い2人とも救助されましたが、妹を道連れにしての自殺は一種の殺人行為であるため、検察官は女性を殺人未遂罪で起訴しました。裁判所は審理後、殺人の動機などの事情を考慮し、女性に有期懲役1年の軽い判決を下した上で、執行猶予処分としました。

「執行猶予」とは、刑事事件の被告人が有罪判決を受けたものの、刑罰の執行が一時猶予されることです。台湾法上の刑の執行猶予の根拠は、次の通りです。

刑法第74条第1項:2年以下の有期懲役、拘留または罰金を言い渡されたが、次に掲げる事由のいずれかに該当し、一時的に執行しないことが適切と認められる場合、2年以上5年以下の刑の執行猶予を言い渡すことができるものとし、その期間は裁判が確定した日から起算する。

1.故意の犯罪で有期懲役以上の刑の言い渡しを受けたことがない者。

2.以前に故意の犯罪で有期懲役以上の刑の言い渡しを受けた者で、執行完了または赦免後5年以内に故意の犯罪で有期懲役以上の刑の言い渡しを受けたことがない者。

第2項:刑の執行猶予の言い渡しは、情状を斟酌(しんしゃく)し、次の各号に掲げる事項を犯罪行為者に命じることができるものとする。

1.被害者へ謝罪すること。

2.始末書を作成すること。

3.相当の金額の財産または非財産上の損害賠償を被害者へ支払うこと。

4.一定の金額を公庫へ支払うこと。

5.40時間以上240時間以下の奉仕労働を指定の政府機関、政府機構、行政法人、コミュニティーまたはその他公益の目的を満たす機構または団体へ提供すること。

6.依存症の治療、心の病気の治療、心理カウンセリングまたはその他適切な処置・措置を完了させること。

7.被害者の安全を保護するために必要な命令。

8.再犯を予防するための必要な命令。

刑事事件の被告人にとって、刑の執行猶予は無罪判決の次に望ましい判決といえます。実務上では、詐欺、背任、横領など被害者が存在する事件で、裁判所は通常、「被害者との和解」を刑の執行猶予の前提条件とします。従って、犯罪証拠が明確で、無罪判決を受ける可能性のない事件で、被告にとって理想的な訴訟戦略は、交渉テクニックの優れた弁護士を通じて、極力被害者と和解し、刑の執行猶予の判決を獲得できるようにすることです。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。