第311回 違法増築物件を事務所として借りるリスク

 内政部営建署の統計によると、2019年9月末現在、台湾全土の違法建築数は約67万8,000件で、全住宅数の約8%を占めています。07年の47万3,000件と比較して約20万件増加しており、取り壊しがあるにもかかわらず増加しています。その理由は、政府当局がマンパワー不足のため、新しい違法増築から取り壊し、既存の違法増築についてはいったん放置するという政策を採っているからです。

 もちろん、既存の違法増築に問題がないというわけではなく、理論上は、政府当局による取り壊しの順番待ちとなっています。しかし事実上は、違法増築が取り壊されても、その間にさらに新しい違法増築の数が増えるため、既存の違法増築の順番がなかなか到来しません。

最終的な責任は賃貸人

 では、違法増築された物件を会社の事務所として借りた際、どのようなリスクがあるでしょうか。まず、違法増築された物件を借りること自体については、借り主が何らかの法令に触れることは基本的にはないと考えられます。ただし、違法増築された物件を借りたことを理由とするけがを従業員などにさせた場合、トラブルが生じる可能性があります。

 台北地方法院(地方裁判所)2010年度簡上字515号の事件では、従業員が違法増築された部分を踏み、落下してけがをした事故について、調停を通じ、使用者(賃借人)が従業員に医療費、治療期間中に仕事ができないことを補償するための金銭などを支払ったことに関し、裁判所は「最終的な責任は賃貸人にある」との判断を下し、原告の使用者(賃借人)は被告の賃貸人に対し、従業員に支払った補償金を請求できるとしました。

 ただ、違法増築された物件の種類はさまざまで、各事案の実際の状況によって、最終的な責任者が異なる可能性があります。

安全配慮義務違反で罰金も

 一方、事故発生を受けて労働当局が調査を行った結果、労働環境が職業安全衛生法などの法令に違反していると判断された場合には、使用者として罰則を受けるリスクも存在するでしょう。違法増築された物件の安全性が通常備えるべき安全性の程度に達していないことなどに起因するけがを従業員にさせた場合、安全配慮義務に違反するとして、当該従業員に対し、使用者が賠償責任を負う可能性もあると考えられます。

 日本とは異なり、台湾では違法増築が多く存在し、物件の説明の際に違法増築であることを告知されない可能性もあります。賃貸借契約の交渉の際には、「本土地において違法な建物が存在せず、および本建物に違法な設計・増築部分が存在しないこと」という表明保証を賃貸人に対して要求することをお勧めします。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 鄭惟駿

陽明大学生命科学学部卒業後、台湾企業で特許技術者として特許出願業務に従事した後、行政院原子能委員会核能研究所での勤務を経験。弁護士資格取得後、台湾の法律事務所で研修弁護士として知的財産訴訟業務に携わる。一橋大学国際企業戦略研究科を修了後、2017年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。