台湾法上の刑の執行猶予

最近、台湾で一つの刑事事件が発生した。高雄の56歳の女性が、40年余りにわたって重度知的障害の妹の世話をしてきたが、あまりにも大きなストレスのため、妹を道連れに自殺を図ったが、幸いにも二人とも救出された。妹を道連れにした自殺も一種の殺人行為であるため、検察官は殺人未遂罪でこの女性を起訴した。裁判所は審理した後、本件における殺人の動機などの事情を考慮し、最終的にこの女性を懲役1年という軽い判決とするとともに、刑の執行猶予を言い渡した。

いわゆる「刑の執行猶予」とは、刑事事件における被告人が有罪判決を受けたものの、刑罰の執行を一時猶予するものである。

台湾法上、「刑の執行猶予」の根拠は次のとおりである。

刑法第74条:

(第1項)2年以下の有期懲役、拘留または罰金を言い渡されたが、次に掲げる事由のいずれかに該当し、一時的に執行しないことが適切と認められる場合、2年以上5年以下の刑の執行猶予を言い渡すことができるものとし、その期間は判決が確定した日から起算する。

一、故意の犯罪で有期懲役以上の刑の言渡しを受けたことがないとき。

二、これまでに、故意の犯罪で有期懲役以上の刑の言渡しを受けて、執行完了または赦免後5年以内に故意の犯罪で有期懲役以上の刑の言渡しを受けたことがないとき。

(第2項)刑の執行猶予の言渡しに際し、情状を斟酌し、次の各号に掲げる事項を犯罪行為者に命じることができるものとする。

一、被害者へ謝罪すること。
二、始末書を作成すること。
三、相当の金額の財産または非財産上の損害賠償を被害者へ支払うこと。
四、一定の金額を公庫へ支払うこと。
五、40時間以上240時間以下の奉仕労働を指定の政府機関、政府機構、行政法人、コミュニティまたはその他公益の目的を満たす機構または団体へ提供すること。
六、依存症の治療、心の病気の治療、心理カウンセリングまたはその他適切な処置・措置を完了させること。
七、被害者の安全を保護するために必要な命令。
八、再犯を予防するために行う必要な命令。

刑事事件の被告人にとって、刑の執行猶予は無罪判決の次に良い判決と言える。また、実務では、詐欺、背信、横領など、被害者が存在する事件において、通常、裁判所は「被害者と和解を達成する」ことを刑の執行猶予を言い渡す前提条件としている。従って、犯罪の証拠が明確で、無罪判決を受ける可能性のない事件において、被告にとっての理想的な訴訟戦略とは、交渉テクニックの優れた弁護士を通じて、極力被害者と和解し、刑の執行猶予の判決を獲得できるようにすることであると言える。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。

【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修