第310回 正当防衛

 台湾法上の「正当防衛」とは、自己または他人が不正の侵害を受けたときに自己または他人を守る目的で、侵害した者に対し反撃を加えた場合、たとえ侵害した者を負傷させ、ひいては死亡させたとしても、反撃した者は刑事責任を負う必要がないという制度である。

 正当防衛の法的根拠は、刑法第23条、すなわち「急迫不正の侵害に対して自己または他人の権利を防衛するための行為は罰しない。ただし、防衛行為が度を越しているときは、その刑を減軽し、または免除することができる」と規定されている。

 本条のただし書きによれば、防衛行為であっても程度を超えている場合には「正当防衛」に該当せず、反撃した者の刑事責任が軽減されるだけで、その刑事責任は免除されない。

不法侵入者に遭遇

 実務においては、防衛行為が「度を越している」か否かをどのように認定すべきかという問題がよく起こる。

 2014年10月、何という名字の男性が妊娠している妻と一緒に帰宅したとき、見知らぬ男性が浴室に隠れているのを発見した。このとき、男性が何氏を攻撃したため、何氏は妻を守るためにこの男性と取っ組み合いになり、この男性を地面に押さえ付け、警察が現場にやってくるのを待った。

 警察が現場に到着したとき、この男性は意識不明となっており、病院に運ばれた後、回復せずに死亡した。この事案は「過失致死罪」により検察官に起訴され、最終的には、高等裁判所が「何氏は家に侵入した泥棒に対し、度を越した防衛方法をもって、この男性を死亡させたことから、『正当防衛』によって責任を免除することはできないため、何氏を過失致死罪により2月の有期懲役の刑に処する」と判断した。

 民事責任に関して、泥棒の両親が何氏に対し約300万台湾元(約1,100万円)の損害賠償を請求したが、裁判所は「何氏には20%の過失があるため、64万8,193元を賠償すべき」と判断した。当該事案の判決の結果に対し、市民のほとんどが何氏に同情し、「正当防衛」に対する裁判所の判断基準はあまりに厳しく、逆に悪人を守り、善人を懲罰することになると考えた。

 本件のように、裁判所の見解と一般社会の考え方とに隔たりが生じるケースは、実務においては珍しくない。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。