第344回 親権のない相手への未成年の子供の扶養費請求

 最高法院(最高裁判所)の2003年度台上字第1699号判決では、未成年の子供に対する両親の扶養義務について次のように判示しました。

  • 未成年の子供に対する両親の扶養義務は、両親・子供の身分関係により当然に発生するものであり、未成年の子供の生活および成長に必要なものを両親が共同で提供するのであって、親権または監護権の実際の行使の有無との間には、必然的な関係は生じない。よって、子供と共に生活していない父親または母親も子供を扶養する義務を負う。
  • 両親はそれぞれの財力に応じて、未成年の子供に対し扶養義務を負わなければならず、未成年の子供に対する扶養費用は全て分担すべきである。未成年の子供において両親の一方が単独で扶養する場合、当然に、他方に対し、当該他方が分担すべき扶養費用の立て替え分の償還を請求することができる。

 よって、婚姻関係の存否にかかわらず、また、相手方が子供と同居しているか否かや親権の有無にかかわらず、両親という身分である限り、扶養費を負担する義務があります。

扶養費の範囲

 通常、裁判所は行政院主計総処が公表する各自治体の1人当たりの毎月の経常性消費支出を基準として扶養費を計算しています。その支出科目は▽食品費▽飲料費▽衣服および靴・靴下費用▽燃料費および水道・電気代▽住宅設備および家事管理費▽保健医療費用▽交通・通信費用▽レジャー・教養・教育費用▽その他の雑支出──を含みます。

 請求者はこれらの科目ごとに領収書を用意して主計総処が公表した計算額より高い金額を主張することも可能です。

 なお、領収書がそろわなくても、裁判所は通常、「両親による子供の扶養において支払う必要がある費用項目は非常に多く、また常識的にはそのほとんどについて証拠となる証票を残していない。それらに基づいて計算することができるよう証拠となる証票を一つ一つ添付するよう原告に対し強制的に命じるとなると、実際に挙証上困難がある。さらには、両親による子供の扶養の趣旨に合致していない」と判示し、現有の証票に基づき適当な金額評価をするはずです。

 一般的な生命保険または医療保険も、子供の利益にかなう限り、子供を扶養するために支出する費用と見なされると思われます。

過去の扶養費の請求

 同判決では、両親のいずれも扶養能力を有する場合、子供の扶養費用について分担すべきであると判示しています。よって、両親の一方が単独で扶養する場合、当然に、不当利得の規定に基づき、他方に対し、当該他方が分担すべき扶養費用の立て替え分の償還を請求することができます。

 不当利得の請求権の時効は15年ですので、両親のうち一方が他方のために立て替えた過去15年間の扶養費についても請求が可能です。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 鄭惟駿

陽明大学生命科学学部卒業後、台湾企業で特許技術者として特許出願業務に従事した後、行政院原子能委員会核能研究所での勤務を経験。弁護士資格取得後、台湾の法律事務所で研修弁護士として知的財産訴訟業務に携わる。一橋大学国際企業戦略研究科を修了後、2017年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。