使用者は従業員のSkypeなどを監視できるか?

多くの使用者は、従業員の業務の状況を監視するため、会社のパソコン内に監視ソフトウェアを設置している。もっとも、最近、会社の経営者が、従業員のSkype履歴を不当に監視したことを理由として、裁判所から有罪と認定される事件が発生した。

本事件の概要は以下のとおりである。

甲はA社から離職する際、同社の経営者である乙と揉めており、甲と乙が口論になった際、乙が甲と友人との間のSkypeチャットの詳細な内容に言及したため、甲は乙が無断で甲のプライベートな会話をひそかに記録したのではないかと疑い、乙に対し刑事告訴を申し立てた。いずれの審級の裁判所も、乙が会社のパソコン内に「X-fort」という監視記録ソフトウェアをインストールし、従業員甲のSkypeのチャット内容を監視記録していたため、通信保障および監察法第24条第1項(違法に他人の通信を監察した場合、5年以下の懲役に処す。)の規定に違反しているとして、乙を3か月の懲役に処すると認定した(判決番号:最高裁判所2019年度台上字第3919号判決)。

各審級の裁判所が被告に対し有罪の判決を下した主な理由は以下のとおりである。1、乙は、甲又はその他の従業員に対し、会社が従業員のパソコン内に「Skype」、「LINE」などの通信内容を監視記録することができる監視記録ソフトウェアをインストールしていることを説明したことがなかった。2、乙は、当該監視記録ソフトウェアを使用する目的は、従業員の営業活動を監視するためであり、プライベートな会話をモニターするためではないと主張したが、裁判所は、乙が「当該監視記録ソフトウェアを使用する際、監視記録する内容を選別することはできず、会社の業務と関係のない他人のプライバシーを監視記録してしまう可能性もある」ことを明らかに知りながら、甲とその友人とのプライベートな通信内容を監視記録することをなおも決定したため、違法に他人の通信をモニターするという犯罪の故意が存在すると認定した。 

本事件の判決理由を考慮すると、本事件のような法的リスクを避けつつ、会社のパソコン内に監視記録ソフトウェアをインストールしたいのであれば、事前に従業員に以下の事項を告知することを検討すべきである。

  • 当社の従業員は、会社のパソコンを使用して、プライベートな通信又は業務と関係のないその他の行為を行ってはならないこと。
  • 当社の運営、秘密保持などの必要により、当社はパソコン内に監視記録ソフトウェアをインストールしており、従業員のパソコンの使用状況はすべて監視記録されること。
  • 従業員が会社のパソコンを使用してプライベートな通信など規則違反の行為を行った場合、当該行為も監視記録されること。

*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。

【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修