第364回 犯罪被害者補償

 台湾に留学していたマレーシア籍の女子大生が2020年10月下旬に、梁という台湾籍男性に強姦(ごうかん)、殺害された事件は、台湾、マレーシア双方の高い関心を集めました。メディアの報道によると、犯人には賠償するのに十分な資産がない可能性があることから、被害者の遺族が11月に「犯罪被害者補償」を台湾政府に申請したとされています。

犯罪被害者補償とは

 いわゆる「犯罪被害者補償」制度とは、犯罪事件発生後、加害者の経済力不足または行方不明などの理由により、被害者やその家族が往々にして賠償を得られないことを踏まえ、台湾政府が被害者保護法の規定に基づき、犯罪行為により死亡した者の遺族、重傷を負った者または性暴力犯罪の被害者に対して金銭による補償を行う制度をいいます。

 犯罪被害者補償の項目および金額の上限に関しては、以下の三つに分かれています。

1.死者の遺族に対する補償金

 これには次のものが含まれます。

(1)被害者が負傷したことにより支出した医療費。最高40万台湾元(約145万円)

(2)被害者が死亡したことにより支出した葬儀費用(最高30万元)

(3)被害者が死亡したことにより履行できない法定扶養義務(最高100万元)

(4)慰謝料(最高40万元)。

2.重傷害補償金

 これには次のものが含まれます。

(1)被害者が負傷したことにより支出した医療費(最高40万元)

(2)被害者が重傷を負ったことにより喪失もしくは減少した労働能力または増加した生活面での需要(最高100万元)

(3)慰謝料(最高40万元)

3.性暴力補償金

 これには次のものが含まれます。

(1)被害者が負傷したことにより支出した医療費(最高40万元)

(2)被害者が性暴力を受けたことにより喪失もしくは減少した労働能力または増加した生活面での需要(最高100万元)

(3)慰謝料(最高40万元)

 被害者やその遺族は、犯罪発生地に所在する地方検察署に対して申請を行わなければなりません。本件マレーシア籍女子大生殺害事件については、高雄の橋頭地方検察署(地検)により受理され、審査が行われることになります。弊職が被害者を代理して補償を申請した経験によれば、一般的に、申請後、約6~9か月程度で賠償を獲得することができます。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。