第371回 勝訴判決を得たが相手方に財産がない場合

 民事事件の勝訴判決を得た後、公権力に基づき自己の債権につき弁済を受けるためには、裁判所に対しさらに執行の申し立てを行わなければならない。しかし、相手方に財産がない場合、たとえ強制執行の申し立てを行っても債権の弁済を受けることはできず、相手方に財産ができたときにはじめて執行可能となる。

時効に注意

 民法第137条第2項、第3項には「訴訟の提起により中断された時効は、確定判決が下された時点、またはその他の方法により訴訟が終了した時点から、改めて起算する」、「確定判決により確定された請求権、または確定判決と同一の効力を有するその他の執行理由により確定された請求権について、当初の消滅時効の期間が5年未満である場合、中断により新たに起算される時効の期間は5年とする」と規定されている。

 権利侵害行為に起因する損害賠償請求事件において勝訴した場合、権利侵害行為の損害賠償請求権の消滅時効はもともと2年であるが、上記の民法第137条第3項に基づき、勝訴の確定判決を得た後、時効は改めて起算され、その期間は5年となる。

執行可能な財産がない場合

 もし勝訴の確定から5年後にようやく強制執行を申し立てた場合でも、裁判所はこれを受理するが、債務者は、強制執行手続きを排除するため債務者の異議申し立ての訴えを提起することができる。そのため、勝訴の確定から5年以内に強制執行を申し立てなければならない。

 強制執行を申し立てた後、債権について完全には弁済を受けていない場合、債権証書を得ることになり、債権証書の時効は当初の債権と同じく改めて起算され、その期間は5年である。

 よって、もし弁済を完全には受けることができなければ、5年ごとに強制執行を申し立てなければならない。完全に弁済を受けるまで、回数の制限なく改めて起算することができる。

強制執行の費用について

 通常、民事強制執行の対象物が5,000台湾元(約1万9,000円)以上である場合、対象物の価額の千分の8の執行費を納付しなければならない。

 ただし、申し立ての際に、債務者に現時点において執行可能な財産がないことが判明しており、かつ裁判所に説明した場合、1,000元の執行費のみを納付すれば、裁判所は債権証書を発行する。

 その後、もし同一の理由で裁判所に対し新しい債権証書の発行を申請する場合、いずれも費用の納付は不要であり、財産に対する執行が成功したときに補足納付すればよい。

 上記をまとめると、台湾において勝訴判決を得たが、相手方に財産がない場合には、勝訴の確定判決を得てから5年以内に、現時点において執行可能な財産がないことを説明した上で1,000元を納付して強制執行を申し立てなければならず、債権証書を受け取った後は、債務者に執行可能な財産ができるまで、5年ごとに裁判所において新しい債権証書の交付を受けなければならない。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 鄭惟駿

陽明大学生命科学学部卒業後、台湾企業で特許技術者として特許出願業務に従事した後、行政院原子能委員会核能研究所での勤務を経験。弁護士資格取得後、台湾の法律事務所で研修弁護士として知的財産訴訟業務に携わる。一橋大学国際企業戦略研究科を修了後、2017年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。