第375回 氏名の変更

 先月、回転ずしチェーンのスシローが、「鮭魚(サケ)」という文字が名前に入っている場合に食事代を無料にするというキャンペーンを実施し、タダですしを食べる目的で改名する人が多数発生しました。今回は、台湾での改名の要件について、氏の変更と名の変更に分けて紹介させていただきます。

子の氏、くじ引きで決定も

 氏について、民法第1059条第1項によると、父母は、子の出生登記の前に、子が父母のいずれの氏を名乗るかについて、書面で合意する必要があります。この合意がなく、または合意ができない場合は、戸政事務所においてくじ引きで決定されます。

 日本法では、夫婦別姓が認められておらず、また、非嫡出子(法律上の婚姻関係がない男女の間に生まれた子)の氏も法律の規定に従って決定されるので、この点は日台で大きく異なります。

 一度決定した氏について、出生登記後、子が成人する前、父母は、書面で、子の氏を父または母の氏に変更することができます。また、子が成人した場合、子が自らの氏を父または母の氏に変更することも可能です。ただし、これらの規定に基づく氏の変更は、一度に限り認められます。

 その他、姓名条例第8条第1項各号によると、以下の場合に氏を変更することができます。

  1. 認知された、または認知が取り消された
  2. 養子縁組をした、または養子縁組が取り消された、もしくは終了した
  3. 台湾原住民またはその他少数民族が漢姓に改めたことにより家族の氏に誤植をもたらした
  4. 音訳が長過ぎる
  5. その他、法律に従い氏を変更する場合

名の変更、「特殊な理由」

 名の変更については、姓名条例第9条第1項各号に規定があり、以下の場合に認められます。

  1. 同時に、一つの機関、機構、団体または学校に氏名が完全に同一の者がいる場合
  2. 3親等以内の直系尊属と名が完全に同一の場合
  3. 同時に、一つの直轄市、県(市)に6カ月以上戸籍を有する、姓名が完全に同一の者がいる場合
  4. 指名手配犯と氏名が完全に同一の場合
  5. 認知されたもしくは認知が取り消された、または養子縁組をした、養子縁組が取り消されたもしくは終了した
  6. 字義が低俗下品、音訳が長過ぎる、または他の特殊な理由がある場合

 上述の「鮭魚」への改名のケースは、同項第6号の事由(特殊な理由がある場合)に基づくものと考えられますが、同号に基づく改名は、3度まで認められます。

 日本において氏名を変更したい場合、正当な事由を立証した上で、家庭裁判所の許可を得る必要があります。正当な事由とは、氏名の変更をしないとその人の社会生活において支障を来す場合をいい、単なる個人的趣味、感情、信仰上の希望などでは不足とされ、極めて限定的な場合に認められます。

 台湾では、日本のような厳格な規制がなく、戸政事務所に改名の申請をすれば改名ができてしまうため、改名のハードルがかなり低いといえます。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 福田 優二

大学時代に旅行で訪れて以来、台湾に興味を持ち、台湾に関連する仕事を希望するに至る。 司法修習修了後、高雄市にて短期語学留学。2017年5月より台湾に駐在。 クライアントに最良のリーガルサービスを提供するため、台湾法および台湾ビジネスに熟練すべく日々研鑽を積んでいる。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。