第376回 タロコ号列車脱線事故の法的責任について

4月2日午前、台湾鉄路(台鉄)特急太魯閣(タロコ)号に重大な脱線事故が発生し、49人の乗客が死亡し、200人強の乗客が負傷するという甚大な被害が引き起こされました。

 メディアの報道によれば、本脱線事故は、施工会社、義祥工業社の責任者の李義祥・容疑者(49)が工事車両を停車した際の操作が不当であったため、当該工事車両が斜面から滑って列車の線路に進入してしまい、ブレーキをかけたが間に合わなかったタロコ号と猛スピードで激突し、脱線、横転したことが原因とのことです。弊所は執筆時点で分かっている情報に基づき、本脱線事故の関連する法的責任について以下の通り分析します。

過失致死の服役は最大5年

1.李容疑者の刑事責任

 主に、刑法第276条の過失致死罪「過失により人が死亡した場合、5年以下の懲役、拘役または50万台湾元(約190万円)以下の罰金に処す」が該当する。

 本事件においては、このような重大な死傷が発生したにもかかわらず、李容疑者の過失行為はたった一つであるため、刑法55条の罪数の計算規定「一つの行為により複数の罪名を犯した場合、範囲内の一つのより重い罪により処罰する」により、最終的に李容疑者は過失致死罪という一つの罪のみを構成する可能性が高い。

2.李容疑者の民事責任

 主に民法第184条の権利侵害行為の損害賠償責任「故意または過失により他者の権利を不法に侵害した場合、損害賠償責任を負う」が該当します。

 本事故により引き起こされた被害は甚大であり、損害も莫大であるため、李容疑者が財産を隠すのを防ぐため、台鉄は義祥工業社および李容疑者の財産、債権などについて、裁判所に仮差し押さえを申し立て済みであり、聞くところによれば、現時点で8億元の財産を差し押さえ済みとのことです。

台鉄の法的責任

3.台鉄の民事責任

 鉄道法第62条の規定

「(第1項)鉄道機構は運転およびその他の事故により人が死亡、負傷しまたは財物が毀損(きそん)・喪失を受けた場合、損害賠償責任を負う。

 (第2項)前項の鉄道の運転およびその他の事故の発生について、鉄道機構による過失によるものではないことを証明できる場合であっても、人の死亡または負傷については、依然として弔慰金または医療・医薬品補助金を適宜支給しなければならない。ただし、事故の発生が被害者の故意または過失行為によるものである場合はこの限りではない。

 (第3項)前2項の損害賠償、弔慰金または医療・医薬補助金の支給の基準、方式およびその他の関連事項の弁法については、交通部が定める」。

 本条第1項の規定によれば、台鉄が本事故の発生について過失があった場合、台鉄は被害を受けた乗客(または遺族)に対し損害賠償責任を負わなければなりません。たとえ台鉄が本事故について何ら過失が無かったとしても、本条第2項に基づき、被害者に対し弔慰金または医療・医薬補助金を支給しなければなりません。

 台鉄は、2018年10月に特急普悠瑪(プユマ)号の脱線が発生し、18人が死亡するという甚大な被害を引き起こしたばかりです。3年もたたないうちにさらに甚大なタロコ号脱線事故が発生したことは、つらく受け入れがたいことです。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。