第382回 インサイダー取引の利益計算方法

 最高法院(最高裁判所)の刑事大法廷が2021年5月19日に2019年度台上大字第4349号決定(以下「本件決定」)を下し、実務において長年にわたり議論されてきた「インサイダー取引における犯罪による利益はどのように計算するのか」に関し、明確な見解を示しました。

 いわゆる「インサイダー取引」とは、証券取引法第157条の1によれば、上場会社の取締役、監査役、大株主など特定の身分を有する者が、同社に重大な影響を与えるその株価の情報を知った場合において、当該情報が確実になった後、公開前にまたは公開後18時間以内に、同社の株式またはその他の有価証券を自ら、または他者の名義で買い付けたり、売り付けたりする行為をいいます。

 同法第171条第1項および第2項の規定により、行為者にインサイダー取引、株式の投機的売買などの犯罪行為があり、犯罪により得た利益が1億台湾元(約3億9,000万円)以上に達する場合は、7年以上の有期懲役に処することとされ、2,500万元以上5億元以下の罰金を併科することができるとされており、得た利益が1億元未満のときは、3年以上10年以下の有期懲役に処することとされ、1,000万元以上2億元以下の罰金を併科することができるとされています。

 言い換えれば、行為者がインサイダー取引により得た利益の多寡が、その刑事責任の軽重にかなり影響を与えます。

利益確定前も

 もっとも、インサイダー取引により得た利益の金額はどのように計算するのかということが、実務においても、学説においても一致した見解が長い間ずっとなかったことから、裁判になった時に、利益の計算基準に対する裁判官の認識が異なるために、食い違った判決がしばしば生じていました。

 本決定は「インサイダー取引における犯罪による利益はどのように計算するのか」について、次の通り、明確な基準を二つ挙げています。

一、行為者がインサイダー情報を知った後、当該情報の公開前にまたは公開後の一定の時間内に株式を買い付け(または売り付け)、その後さらに株式を売り付けた(または買い付けた)場合、この場合に得た利益の計算方法は「2回の売買における株価の差額×取引された株数」とする。

二、一方、行為者が「好材料となるインサイダー情報」を知った後に株式を買い付けたが、情報の公開後も保有し続けて売却しなかった場合、または行為者が「悪材料となるインサイダー情報」を知った後、保有株式を売却していたが買い戻さなかった場合、行為者が後から売り付けまたは買い戻しをしなかったことのみを理由に、財産上の利益を獲得していないと判断することはできず、「行為者が買い付けた(または売り付けた)株式の価格と情報の公開後10営業日における平均の終値との差額×買い付けられた(売り付けられた)株数」を行為者が得た利益とすべきである。

 インサイダー取引に関する事案は、しばしば複雑な法律問題に関わりますので、正確かつ効率的に処理できるようにするには、証券取引法および証券市場の運営に関する法律の専門家に依頼すべきです。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。