第381回 原住民族専門法廷について

 台湾には、17世紀初頭に中国大陸からの移住が盛んになる前から台湾に居住していた原住民族が存在し、現在、16部族が原住民族として台湾政府に認定されています。これら原住民族の基本的な権利を保障するなどの目的から、台湾では、原住民族基本法(以下、「基本法」といいます。)という法律が定められています。基本法第30条第1項では、政府は、司法や行政手続を実施する場合、原住民族の伝統、文化、価値観などを尊重しなければならない旨が規定されており、同条第2項では、政府は、原住民族の司法の権益を保障するため、原住民族裁判所または法廷を設置することができると規定されています。

 2013年1月1日、司法院は、基本法第30条第2項に基づき、9カ所(桃園、新竹、苗栗、南投、嘉義、高雄、屏東、臺東、花蓮)の地方法院(地方裁判所)に原住民族専門法廷を設置しました。

取り扱い案件の範囲と類型

 原住民族専門法廷の取り扱い案件の範囲および類型は以下の通りです。なお、原住民とは、原住民族に属する個人を指し、部落とは、政府が認定した原住民の団体を指します(基本法第2条第2号、第4号)。

1、犯罪類型にかかわらず、被告人が原住民である刑事事件
2、以下の2つのいずれかに該当する民事事件

(1)両当事者がいずれも原住民、部落、原住民族である民事事件。
(2)一方当事者が原住民、部落、原住民族である以下の民事事件。

▽土地返還▽損害賠償▽契約履行、契約終了、賃貸借契約事件▽第三者異議の訴え▽不当利得返還事件▽妨害排除▽土地・建物の所有権存在または不存在の確認▽耕作権・地上権の存在または不存在の確認▽賃貸借関係存在の確認▽耕作権または地上権登記の抹消▽共有物分割▽境界確定▽建物明け渡し▽請求異議の訴え▽その他当事者が申請し、受訴裁判所が適当と認めた事件。

 2013年には、後装銃を所持していた原住民が鉄砲の所持を禁止する条例に違反したとして起訴されましたが、台東地方裁判所の原住民族専門法廷は、原住民にとって山林に入って狩猟することや動物を追い払うことは重要な行為であることなどを理由に無罪を言い渡しました。

 このように、法律を一律に適用するだけではない司法制度は、原住民族の伝統、文化、価値観などを尊重し、原住民族と共存していく上で必要不可欠なものであると考えます。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 福田 優二

大学時代に旅行で訪れて以来、台湾に興味を持ち、台湾に関連する仕事を希望するに至る。 司法修習修了後、高雄市にて短期語学留学。2017年5月より台湾に駐在。 クライアントに最良のリーガルサービスを提供するため、台湾法および台湾ビジネスに熟練すべく日々研鑽を積んでいる。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。