第390回 ネットショップでの価格誤表記

 今年1月、台湾のある有名な会社がインターネット上での販売価格200台湾元(約790円)を誤って34元と表記し、特定個人から大量の注文があったものの、表記通りの価格で出荷したというニュースがありました。このように、ネットショップで価格を誤表記してしまった場合に、店側に当該表記通りの出荷義務があるのか(売買契約が成立しているのか)について、解説いたします。

 2016年7月15日に経済部が公布した「小売業などネット取引約款の要記載事項および記載不可事項」(中国語:零售業等網路交易定型化契約應記載及不得記載事項)の第5点では、「企業経営者は、消費者が契約を締結する前に、商品の種類、数量、価格およびその他の重要事項の確認の仕組みを提供し、確実に契約を履行しなければならない」旨が規定されています。この規定を字義通りに適用した場合、企業経営者は、価格を誤表記してしまった場合であっても、誤表記した価格を前提に契約を履行する義務があるように思われます。

取り消し権を明記

 しかし、20年12月22日、消費者がネットショップでスマートフォンを相場の5分の1程度の価格で購入した事案において、企業経営者は必ずしもネットショップで表記した価格通りに履行する必要がないとの判断が下されました(新北地方法院=地方裁判所109年度簡上字第213号判決)。

 同判決の概要は次の通りです。

 当事者の意思表示(申し込みと承諾)が合致した場合に契約が成立するところ、「申し込み」と「申し込みの誘引」は異なる概念であり、後者の場合、誘引者が承諾後に初めて契約が成立する。商品が出品されていたウェブサイトには、「価格に誤りがあり~(中略)~市場価格よりも1,000元以上低い場合~(中略)~店は注文書を取り消す権利を有する」などの記載があり、また、消費者による注文後の返信通知には、「注意事項:店は注文書を受け入れるか否かの権利を留保する」などの記載があった。本件で店側が商品をウェブサイトに載せた行為は、「申し込みの誘引」であり、店側が承諾をしていないので、売買契約は成立していない。

 以上の通り、ネットショップで価格を誤表記してしまった場合に、売買契約の成立を否定することも可能です。ネットショップの運営では、誤表記の場合に売買契約不成立を主張しやすいよう、裁判例の店のように店側の取り消し権などを明記しておくことをお勧めいたします。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 福田 優二

大学時代に旅行で訪れて以来、台湾に興味を持ち、台湾に関連する仕事を希望するに至る。 司法修習修了後、高雄市にて短期語学留学。2017年5月より台湾に駐在。 クライアントに最良のリーガルサービスを提供するため、台湾法および台湾ビジネスに熟練すべく日々研鑽を積んでいる。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。