第391回 台北市の大道芸人の許可制度の違憲判定

 司法院大法官会議は2021年7月30日に第806号解釈を作成し、台北市の大道芸人の許可制度は違憲だと判定した。

 本件の発端はこうである。数年前に台北市の大道芸人許可証を取得した陳氏が14年に台北市万華区の西門町で演技を行った。台北市政府は陳氏が演技を行った場所が申請した場所と異なると認定し、陳氏の点数を5点減点した。陳氏にはほかにも規則違反行為があったため、累計の減点数が9点以上となり、台北市政府は陳氏の大道芸人許可証を取り消した。陳氏はその後1年間、大道芸人試験に改めて参加して許可証を取得することができなくなった。

 陳氏はこれを不服として、台北市政府の処分に対し行政不服申し立ておよび行政訴訟を提起し、最終的な結果はいずれも敗訴となった。陳氏は諦めず、16年11月に「台北市の大道芸人許可制度は憲法に違反している」との理由で司法院大法官会議に憲法解釈の申し立てを行い、5年近くを経て、今年7月30日に大法官に認められ、勝利を得た。

職業選択の自由を制限

 台北市の大道芸人許可制度に対する大法官会議の主な評価は次の通りである。

1.法律の留保の原則に反している
 台北市政府が制定した「試験を受けてからでなければ、演技の資格を取得することができない」という制度は、人民の職業選択の自由および芸術的演技の自由を制限している。当該制度は議会で可決されていないため、法律の留保の原則に反している。

2.芸術的価値は政府が認定すべきではない
 芸術的価値の高さは視聴者の主観的評価であり、政府が公権力により認定すべきではなく、社会の大衆に評価判断を委ねるべきである。

3.政府は演技を行う場所の適否を審査することができる
 政府は技芸のレベルを審査することはできないが、特定の場所での演技に適しているか、例えば、音量が大き過ぎないか、住宅地で演技を行っていないかなどを審査することができる。

 台湾の各県・市にはいずれも大道芸人の審査試験制度がある。第806号解釈の公布後、台湾の人民は、許可証を取得せずとも街頭で演技を行うことができるようになる。このため、「街頭で品質的に問題のある演技を見たり、聞いたりすることを強いられるかもしれない」と懸念する人も少なくない。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。