第412回 不倫に関する裁判所の最新見解

 台北地方法院(地方裁判所)が2021年12月に、夫婦の一方が「配偶者権」を有することを否認する2020年度原訴字第41号判決を下しました。
 当該判決は台湾の裁判所が配偶者権(つまり、不倫してはならない義務を負うことなどを含む夫婦の間における相互に配偶者であることに基づく身分権)を普遍的に認めてきたそれまでの見解を覆すものであったため、各方面で論議を呼びました。

 本件の概要は次の通りです。

 原告の陳氏は、19年4月から6月までの期間に、夫がしょっちゅう夜遅くに被告の洪という女性と電話で話をし、さらに19年8月には、夫が洪氏と台北市の街頭で手をつなぎ、親密な抱擁を交わし、また、しょっちゅう洪氏の家の駐車場に車を停めていたことを発見しました。夫も原告に対して不倫を率直に認めました。
 原告は、動画およびフェイスブック(FB)の写真を証拠として、洪氏が自分の夫を誘惑した第三者であると考えました。
 原告は、洪氏が自分の配偶者権を侵害したことにより、婚姻制度における原告の夫婦円満な幸せな家庭生活が洪氏によって破壊されたと主張し、80万台湾元(約330万円)を求償しました。

婚姻への介入は認定

 本件において、被告洪氏は出頭せず、裁判官は原告が陳述した事実を採用し、洪氏が確かに原告の婚姻に介入したと認定したものの、最終的に洪氏が賠償する必要はないとする原告敗訴の判決を下しました。当該裁判官の主な理由は次のとおりです。

1.刑法の姦通罪の規定は、20年5月29日に、司法院大法官釈字第791号解釋により、「人民の性の自主権を制限することは憲法第23条に違反する」ことを理由に無効を言い渡された(非犯罪化)。現在、婚姻関係について、台湾の憲法では配偶者双方の平等で、自主的な(性の)自主決定権を重視している。

2.配偶者は相互の関係において互いに独立自主の個体であり、婚姻関係によって他方の意思または自主決定を支配する特定の権利を有しないため、憲法変遷の背景からすると、「配偶者は他方の客体として、他方によって独占、使用される」という意味を含む配偶者権は当然認めるべきではない。

姦通罪の廃止

 台湾法において、20年5月29日から、姦通罪がなくなったため、実務では、夫または妻が不倫した他方および第三者に対して「配偶者権侵害」を理由に民事訴訟を提起し損害賠償を請求することが多いです。

 また、原告は他方が不倫した事実を証明できさえすれば、これまでほとんど全てのケースで勝訴判決を得ることができています。

 もっとも、本件の判決は「配偶者権」の存在を否定しており、第二審(控訴審)においても当該見解が維持されれば、将来的に不倫した配偶者および第三者に対して法的手段をとることはますます難しくなります。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。