第431回 身分証の記載情報は過剰か

日本のマイナンバーカードには氏名、住所、生年月日、性別、マイナンバー(個人番号)と本人の顔写真などが表示されます。一方、台湾の身分証には上記の情報のほか、父母、配偶者、出生地、兵役の種類までもが表示されます。

家族情報不記載、認められず

 ある市民が区役所で、新しい身分証への切り替えを申請した際、これらの情報まで記載するのは行き過ぎで、不要だと考え、写真、性別、父母や配偶者の氏名、出生地、本籍、生年月日、兵役の種類が表示されない身分証を要求しましたが、区役所は許可しませんでした。

 この市民は台北市政府に対する不服申し立てが拒否された後、台北高等行政法院(行政裁判所)に抗告を行いました。釈字第603号解釈の趣旨によれば、憲法は情報プライバシーの権利を保障していること、また、憲法法廷判決2022年憲判字第2号判決も人民の意思表示をしない自由を保障していることから、身分証上の重要なプライバシー情報の追加、修正または削除をいつでも決定することができ、重要なプライバシー情報の開示を原告に強制するような現行の国民身分証管理弁法の規定は違憲であり無効とすべきであると主張しました。

比例原則に違反
身分証における行き過ぎた情報開示は比例原則に違反している

 裁判所は「釈字第603号解釈では、プライバシーの権利は憲法により保障されており、また、憲法では人民が情報プライバシーの権利を自らコントロールすることをも保障しており、身分証の開示項目は比例原則に適合していなければならず、適合しておらず、個人情報を過剰に開示した場合には違憲となることをはっきり示している。

 身分証上の父母の氏名、配偶者の氏名は、これにより個人の身分を識別することがもちろん可能であるが、間接識別情報であり、比例原則に違反し、戸籍法の授権の趣旨に反する。また、兵役の種類は身分の識別と全く関係がなく、これも比例原則に違反していると考える」と認定しています。

裁判所は「身分証では開示する必要のない情報は隠すべきである」と認定した

 生年月日、写真、性別、出生地、本籍については、社会において個人の身分の正確性を識別するのに必要な情報であり、比例原則に違反しておらず、戸籍法の授権の趣旨にかなっており、区役所は父母の氏名、配偶者の氏名や兵役の種類が表示されない身分証を当該市民に交付することを許可すべきであるとの判決を下しました。

 裁判所が認定した身分証において開示すべき情報は、日本のマイナンバーカードの記載と比べると出生地が多いものの、このような判決結果は日本ではおかしいとは思われないはずです。しかし、台湾の戸籍事務の主管機関である内政部戸政司は裁判所の判決は不合理であり、個人情報を保護するために身分証の身分識別機能を低下させるべきではないと判断し、本件の被告である区役所の控訴を支持しました。

 このため、本件の結果はまだ確定されておりませんが、相当な注目を集めている判決になります。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。
執筆者紹介

台湾弁護士 鄭惟駿

陽明大学生命科学学部卒業後、台湾企業で特許技術者として特許出願業務に従事した後、行政院原子能委員会核能研究所での勤務を経験。弁護士資格取得後、台湾の法律事務所で研修弁護士として知的財産訴訟業務に携わる。一橋大学国際企業戦略研究科を修了後、2017年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。